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不恰好。間抜けな青年を一言で例えるなら、これが一番相応しいと言える。シャツにコートと普通の服装をしているかと思えば、下はカーゴパンツに厳ついブーツ姿。統一感がないと言うか、ハッキリ言ってダサい。そんな感じの青年だ。
 それなのに、髪はこの場を包む闇よりも黒く、肌は光に照らさなくとも異様な白さをしていた。いつか書籍で見掛けた東洋人の特徴とよく似ている。
 青年はコートやズボンに着いた砂やゴミを払い、再び彼女に目を向ける。その目は何処か恐怖に満ち満ちていた。彼女も盛大に空振らせたナイフを下ろし、再び身構える。

「ごめん! びっくりしちゃって。怪我、でもしたんですか?」
「……」

 青年は少し言いにくそうに問う。しかし、彼女の姿と両手に持つ明らかに猟奇的な事件が起きた後の姿を見て、「怪我してるの?」と呑気な疑問を抱く人間は居ないだろう。否、此処に居る。突拍子の無い質問に彼女も呆れ、眉根を寄せた。

「血塗れだし、病院……は今やってないや。その、手当しましょうか?」

 此奴、正気か?
 驚愕の鈍さに、彼女は思わず青年の人格を疑う。この期に及んでまだ怪我をしていると思っているのか。流石に有り得ない。
 でも、姿を見られてしまった以上、消さなくてはならない。この目撃だけでも、有力な情報と成り得る可能性が高い。監視カメラが無いこの時代にはこれらの目撃情報が、何よりも重要な武器となる。それだけは避けねばならない。
 青年は未だ呑気に周りを見渡している間にも、彼女はナイフを構えて直して、徐々に男との間合いを詰める。

「……ん? あれ、さっきから焦げ臭い気、ガハッ!?」

 スパンッと言葉にするよりも美しく、男の頸動脈は切り裂かれた。ほんの一瞬の出来事。彼女は青年の関心が逸れた瞬間に間合いを詰め、ナイフを横に円を描く様にして薙ぎ払ったのだ。一秒にも満たない、本当に一瞬の殺人劇。青年は糸が切れたかの様に崩れ、今度はうつ伏せに倒れる。首からは血が滴り落ちていた。
 さて、面倒な事になってしまったと、彼女は頭を捻る。只でさえ大荷物を抱えている身である為、出来立てホヤホヤの死体を運ぶのには彼女にとって重労働だった。一層の事、死体回収屋にでも頼もうかと決めあぐねていると──

「──っ」

 突如、もう動かない筈の死体の指が動き始めたのだ。そこから、腕、足、頭、胴体の順で動き出し、最終的には死体自ら起き上がって、切られた頸動脈を撫でる。傷は何故か塞がっていた。

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十二月三十一日(プロフ) - づみさん» 有難う御座います。読んで頂き光栄です。更新頑張りますので、今後共宜しくお願いします。 (2018年3月3日 2時) (レス) id: 70aae954fa (このIDを非表示/違反報告)
づみ(プロフ) - お話がとても好きです、更新たのしみにしています。頑張ってください〜 (2018年3月2日 16時) (レス) id: 688586594f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:十二月三十一日 | 作者ホームページ:   
作成日時:2018年1月18日 21時

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