17ー許し3ー ページ18
彼女が離れていくと感じた瞬間言葉になって口から溢れた。彼女は暫く背を向けたままだったけど、小刻みに震える肩から彼女のしまい込んだ感情の蓋が開いたのを感じた。
彼女に手が届く場所まで来たとき、最初は抱きしめてあげたかった。でも少し冷静に考えたら色々な面で駄目だとわかってギリギリで踏み留まる。
だから頭を撫でる事にした。頑張った子どもを褒めるときって言うのはこんな感じかなと思いながら。彼女の長い髪がするすると指を滑るのがどこか心地良かった。
振り返った彼女はもう笑っていなかった。彼女を殺す笑顔ならもういらない。だから俺は彼女を許した。できるだけ優しく。
「つらいときは泣いて、甘えていいんだよ」
それでやっと泣いてくれた。俺がAちゃんを許した事で、彼女が彼女を許す事ができた。言葉に出せなかった頑なな思いを受け入れて素直に泣く彼女を見て、どうしてか俺の方が許された気持ちになった。
少し泣いた後Aちゃんは俺の手から離れていく。もっと泣いておいた方がいいんじゃないかと思った俺はもう少し撫でようとしたんだけど露骨に距離を取られた。流石に深追いはできなかった。
もう十分だと言って彼女は笑った。先程よりも綻んだ笑顔はやっぱり女の子で愛らしく、今の季節──春の木漏れ日のような温かみがあった。
だけどまだ彼女の問題は解決していないのだ。これからこの知らない世界で彼女はどうしていくつもりなのか聞くと、警察に保護してもらいその後施設に入る──あっけらかんとした様子で彼女はそう言った。それしかないのだと。
Aちゃんの選択が間違っているとは言えない。実際に身寄りのない子どもを引き取る施設というものが存在するのだから、彼女がそこを頼ると考えた事はおかしくない。そんなに悪い場所ばかりではなかったし。
でも俺にはその選択が正しいとも思えなかった。俺と別れた後も今みたいにAちゃんが笑っていられる保証はない。会場で見たような笑いたくても笑えない、そんな苦しい状態に逆戻りする可能性もある。
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作者名：たま | 作成日時：2020年12月3日 0時
