煌めきに満ちた世界で1 (ページ17)

今日:8 hit、昨日:8 hit、合計:18,682 hit

16ー許し2ーページ17

会場近くの公園であの子を見つけた。走ってきたので少し乱れた呼吸を整えてから愛想良く声をかけた──つもりだったけど、彼女は俺に気付くと怯えたように固まってからベンチから落ちた。あの時はびっくりしたな。

　助けた事にお礼は言われたけど警戒されてるのがよくわかった。どちらかと言うと俺か速水ヒロだとわかると歓迎される事の方が多かったから新鮮な反応だった。でもそれよりも俺やオバレを知らない事の方が衝撃だったかな……何でショーに来たのかなって思ったよ。

　その後は何とか宥めすかして話をする事ができた。「突然帰る場所がなくなった」……にわかには信じられないような話だったけど、俺にとっては俺たちの曲に無反応だった事の方が信じられなかった。コウジの曲とカヅキのダンスに心を揺さぶられない人はいない。もしそう言う人がいたとしたら、これくらいの事情がないと納得できない。だから彼女の話を信じた──それを除いても俺はAちゃんの事を信じたと思う。
　初めて見た彼女は人形のように無表情で何を考えているのかわからなかった。でも接してみると思った以上に人間らしく、そして単純だった。最初は少し捻くれた態度をとっていたけどあれは保身の為のもので、俺への警戒を弱めた後はただただ素直で純粋だった。そう振る舞える彼女が少し妬ましいと思う程に。

　それに彼女を見てるとつらかった。正確には泣きたいのに自分で泣く事を許さない姿が痛ましかった。突然居場所を失う、それはショックだろう。そのとき感情がどこへ向かうのかは人によると思うけど、たどたどしく話す彼女の横顔が俺には「泣きたい」「甘えたい」「一緒にいてほしい」と叫んでいるように見えた。
　でも話し終えても彼女はそんな事は言い出さなかった。寧ろ笑った。清々しく。それは月明かりと相まって残酷な程に綺麗だった。その笑顔が彼女の叫びをなかった事にしていくようで、全てを諦めたように見えて、俺自身が笑えなくなった。

どうしてそこまで泣く事を許さないのか。
笑う事が仕事じゃない一般人のはずなのに。
つらいなら泣いたっていい。
泣いた方がいいはずなのに泣かない。

こういうときどうしたらいいのか。
自分が自分を許せないとき。
俺が俺を許せないとき。

コウジをひどく傷付けてしまった事がある。
許してくれとは言えなかった。
でもコウジが、カヅキが、ファンの皆が。
　
そうだ。
君が泣く事を君が許せないのなら。
俺が君が泣く事を許すから。