【HQ】ヘーゼル色の光【夜久衛輔】

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もう、好きなことが出来ない。

これでもかという程に泣き倒した翌日ですら、本業は高校生だからもちろん学校がある訳で。
どんな前日を過ごしていたとしても、神は平等に明日を与える。
目が腫れてしまったし、泣きすぎて頭が痛かったけれど、両親や兄にこれ以上ショックな姿を見られたくなくて、どうにか強がりたくて、平然を装って学校へ向かった。

昨日はシンシンと雪が降っていたというのに、今日はそれが嘘かのように雲ひとつない晴れ。雪が薄く所々に積もっていて、雲もないから冷たい空気が上へと吸い込まれるような心地だ。
どうせなら、冷たい雨でも降ってくれたら良かったんだ。学校に着くまでの間、とことん落ち込む時間が作れて、着いてからはどうにかいつも通りを演じれば良いのだから。

「…………………………。」

あと数歩足を進めれば、親友やクラスメイト、先生達が待っている学校に着く。その境界線である校門が、今日限定の薄い雪化粧をしてそびえ立っているのだ。
雲ひとつない、上へ上へ吸い込まれてしまいそうな淡い水色の空へAは顔を向けて、1度睨みつけてから校門を通った。マフラーで隠れなかった鼻先が冷たくて冷たくて仕方がない。





「─────それで、こういう場合ではこの文法を使うことによって───────」


自分が熱を注いでいたものがなくなる喪失感は、どうやら思ったより日常生活に影響が出るようだ。こういうこと、知りたくなかったのが本音だ。
好きな化粧品ブランドの成り立ちが記されている英文の内容やテストに必要な文法や複雑な表現が、いつもと比べて何一つ吸収されない。
テストの時にキツイ思いをするから、ただ黒板に記されたり何とか耳に入ることが出来た言葉をノートに書き込んでいる。
予習という名の宿題をしながら楽しみにしていたというのに、こんな形で授業を迎えることになるだなんて誰が思うか。

「────────では、今説明した文法や発音が使われている12行目から16行目のところを読み合わせしてもらいます。」

(うわ。まぁでも、読み合わせは英語あるあるだから仕方ないか……。)

出来るだけ今日は人と話したくないと思いながらも、逆らう訳にはいかない。
いつも通り隣の席の人と読み合わせるだろうと思い、横をのっそりと向きかけたその時。
英語表現担当の女の先生は、明るい笑顔で口を開いた。

「ん〜。いつも隣同士だけど、今日は前後でやってみましょうか！」
(ッ！？)

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