【HQ】ヘーゼル色の光【夜久衛輔】

＊8-3. ページ35

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「中入ったけどどうしたの鉄君」
「あーいやー、あのーえーっとですね……」
「黒尾が言いたいこと分かる気がするから、俺が聞こうかな。Aはこんな大きなマンションに住んでいるんだな」
「…ッ………。そう、だわ、言うの…、忘れて、たわ」

信君の問いかけに対して、とびきり冷えた水を脳天からかけられたような心地に陥った。
胸の奥が、つめたい。

父は代々続く開業医、最近近くのカフェでいきなりパートを始めた母の実家はタクシー会社経営。兄は私立中高一貫校に通学した後、国立大の医学部に在籍している。
そして信君が言ったこの大きなマンションはタワーマンションな訳でして。俗に言う、お金持ちという家庭の中で私は生まれ育っているのである。

「誰かを初めて家に招く時、いつも心がけるようにしているんだけど……タワマン、なんだよね…。ごめんなさい、事前にきちんと言うの、忘れてしまってた…」

まだ小学生の頃、母子家庭で常に節約をしている友達を家に招いたことがある。
その時私がきちんと説明しなかったせいで、『お金持ちだってのを自慢したかったんでしょ！私はお母さんとずっとお金をできる限り使わない生活をしてるのに！！』なんて言われてしまって、そこから喧嘩になって、クラスの子にもいじめ紛いな仕打ちを受けた苦くて苦しい過去が私にはあるのだ。

それ以降、自分の家に誰かを招く時は、自分の家庭事情を話して、都心の中でもとりわけアクセス良好な立地のタワマンに住んでいることを話して、それでも来てくれるのかを確認するようにしていたのに。

最悪だ、どうしよう。
またあの時みたいになったら。
どうしよう、最近は少しずつでも皆の力になれてるんだって、自信を持つことが出来たのに。
バレエが出来なくなっても苦じゃないくらいに楽しくて、これからももっとマネージャーとして頑張ろうって、皆の支えになろうって、思っていたのに。


(…………安心、してしまっていた)

3人の優しさに、浸っていたんだ。
目頭が熱くなって、涙が出そうになった。

「そりゃあ、Aはずっとバレエしてたんだろ？」
「────────っへ、？」

平然とした顔でそう話しかけてくれたのは衛輔だった。

＊8-4.→←＊8-2.

• 金　運: ★☆☆☆☆
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