依存(彼のお話) ページ16
美しい、と思った。
取引先の屋敷へやってきて初めて会ったA。
まだまだ幼い頃少女だが、婚約者がいるらしい。
おめでたいことだ、とその場では言った。
俺の演技はそこそこ良いはずで。
取引相手は満足そうに笑った。
だけど
俺は彼女を自分の家系へ迎えたくてたまらなかった。
それからは度々屋敷を訪れ、彼女と直接話をすることができた。
『こんにちは、お兄さん』
スカートの裾を持ち、恭しくお辞儀をする彼女。
その仕草の美しさについつい釘付けになる
「私の仕事の取引相手のグルッペンさんだ」
『はじめまして、グルッペン様。Aと申します』
「………」
『……グルッペン様?』
「あ、いやすまない。Fräulein…美しさについ見とれて」
『グルッペン様こそ。これほど美しい金糸のような髪には出会ったことがないわ』
「ほらほら、父親の前で何をやっとるんだ」
『ごめんなさい、お父様。』
「グルッペンさん、娘が失礼しました。お話はどうぞこちらで」
「Aさん、ありがとう。私はこれで失礼」
Aさんはこちらを見て微笑んでいた。
その微笑みをみて、俺は強く思った。
《嫁として貰いたい》
と。
それからは仕事が早かった。
簡単だ。婚約者となったものを殺せばいいのだ。
そうすればAの貞操は守られるし
俺以外のやつと結婚することはない。
行き場をなくした彼女を迎えに行き、俺だけがAの味方だと分からせればいいだけだ。
これからきっとAは
俺を呼び、俺に縋り、俺に依存することだろう。
栄養失調寸前の弱った彼女を抱えながら、そんなことを思った。
秋が近づいてきたある日、人殺しの花嫁が街から消えた。
End
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作者名:柚川 | 作成日時:2019年9月15日 20時