現実逃避 【衛藤昂輝】 ページ1
「何処か行くのか?なら俺もついて行く。少し待っていてくれ」
『……は?』
待って、整理がつかない。
時刻は、深夜1時。昂輝はとっくに寝てるはずの時間。そしてここは私の家の前……。
どうしてここに居る?
そんな疑問が真っ白な頭の中に浮かんだ。
玄関の扉を開けたら彼氏が立っているんだ。深夜1時に。普通に考えて有り得ないし気味が悪い。
いくら美形で容量が良くてなんでも出来る超人彼氏でもこれは怖い。怖すぎる。
「確か……ここ、だろ?行こうとしているのは」
『なっ…んで…』
昂輝が見せてきたスマホの画面には、私が行こうとしていた所が表示されている。
「行きたかったなら言ってくれ。君となら何処へでも行くのに……どうして言ってくれなかったんだ?」
笑顔が一瞬にして真顔に戻る。嫌な汗が背を伝う感覚を覚えた。
どうして?なんで知ってるの?どこまで知られてる?
誰も答えてくれるはずかないのに、そんな疑問が頭を埋め尽くす。
昂輝にはバレないようにしたはずなのに。
そうだ…バレないように、涼太にも協力をお願いした。この男から逃げる為に。
手が震えて、まともに考える事が出来なくなる。
今は一刻も早くこの男の傍から離れたくて、開けかけていた扉を閉めた。
はずだった。
そんな細い腕の何処にこんな力があるんだ。閉めようとした扉は昂輝の手によって阻まれる。
出来る限りの力を入れて扉を閉めようとしても、抑えられたドアはビクともしない。
「ははっ、もしかして俺にサプライズか?嬉しいな、二人きりで旅行なんて久しぶりだ」
くすくすと楽しそうに言う昂輝に鳥肌が立った。
私は一言もそんなこと言っていないし、お前から離れる為に行こうとしてんだよ……!
悲痛な叫びは誰にも届かない。誰も助けてはくれない。
「涼太にまで行き先を相談して……ふふ、俺はその気持ちだけで充分嬉しい」
『……え?今なんて…』
‘涼太にまで行き先を相談して’…?
あれ、私はバレないようにしたはず。涼太が昂輝に言った…?そんな事考えられない。
そういう所はしっかりしている人だし、信頼があるからこそわたしは彼に相談したのだ。
「だが、こんな時間に出発なんて……Aは可愛いんだから気をつけないと駄目だぞ」
『いやいや、何言って……そういう話じゃないでしょ?』
口から乾いた笑いが溢れた。
綺麗な眉を下げ、困ったように言う目の前の男はこの行動を全て己の為にやったと思っているらしい。
31人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ななせ | 作成日時:2019年2月26日 7時