129.盗み聞き ページ29
・
「………リーマス…」
思わず飛び出した言葉。
その声が自分のものだと気づいた時には遅かった。
「っ！」
はっと口を塞ぐ。
私は今、なんて…。
「……リア？」
降ってきたのは、訝しげなシリウスの声。
はっとした。
はっとした後、グルグルと思考が駆け巡り、一切のことを考えられなくなった。
襲いかかってくる運命に身を委ねたい。
降りかかってくる彼の声に全てを任せたい。
他人事のような瞬間だった。
その数秒さえも、私は何も考えられなかった。
視線さえも動かせない。
私は、緊張している。
「リア」
その声は、ぎこちない優しさを含んでいた。
顔を上げなくてもわかる。
この声の主が誰なのか。
「……」
返事はできない。
返事をする資格さえ無いのかもしれない。
だって私は彼をひどく傷つけた。
緊張からか、不安からなのか、知らぬ間に唇を強く噛み締めていた。
このまま時が止まってしまえばいいのに。
そう思った。
「……」
彼が、どんな顔をしているのかが怖い。
どんな言葉を発するのかが怖い。
また私を拒絶する？
また私と見えない溝を作る？
傷つくのが恐ろしいか？
言葉の刃を向けられるのは怖いか？
寸分先の恐ろしい未来を想像して、私は臆病になる。
…だけど。
「…リーマス……」
顔を、上げる。
ゆっくりと。
数分のように長い時間のように感じたが、実際は数秒ほどの時間だったと思う。
ドキドキと心臓が脈打つのがわかる。
知らぬ間にじっとりと手に汗が浮かんでいた。
「リア」
彼がもう一度名を呼ぶ。
彼は、手の届く場所にいた。
そして、彼は、
「また盗み聞き？」
彼は、そう言った。
彼は…リーマスは、僅かな微笑を浮かべていた。
「…ごめんなさい、そのつもりは、」
リーマスは、穏やかだった。
しかしひどく混乱しているようにも見えた。
身の振り方を決めかねているような、そんなようにも見えた。
「…おい」
シリウスが気まずげに口を開く。
でもそんなのは荒れ狂う海に小石を投げ込むような、僅かな変化ももたらさなかった。
リーマスは私から目を逸らした。
私はそんな彼を見つめた。
僅かな沈黙。
どうしよう、と考える暇もなくその沈黙は打ち破られる。
「…盗み聞きは良くない。
君はまず、その癖を直さないといけないね」
「ごめん…」
案外、その声は穏やかだった。
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もちお(プロフ) - 寝る前や空いた時間に少しずつ読みました！この作品がとても大好きです、更新楽しみにお待ちしてます！！！ (4月29日 16時) (
レス) @page32 id: 3dbffe5af8 (このIDを非表示/違反報告)
ことり。 - 引き込まれてどんどん読み進めてしまいました！更新楽しみにしています！ (4月4日 22時) (レス) id: 0c2f06c45e (このIDを非表示/違反報告)
ihok(プロフ) - ななさん» 更新が滞ってるのにも関わらず、温かいコメントありがとうございます^ ^ 少しずつ時間を見つけて更新していこうかと思います！これからもよろしくお願いいたします。 (9月8日 10時) (レス) id: 7fd5b0eefb (このIDを非表示/違反報告)
なな - 久しぶりに読み返しました、また号泣してしまいました（т-т）無理せず更新されることを願ってます。 (8月27日 1時) (レス) @page28 id: aed3455a0e (このIDを非表示/違反報告)
ihok(プロフ) - イジーさん» ありがとうございます！お話更新したので是非^ ^ (2023年3月29日 22時) (レス) @page26 id: 7fd5b0eefb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ihok | 作者ホームページ：http://mobile.twitter.com/ihok__
作成日時：2021年9月7日 23時
