好奇心の天秤 ページ7
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目の前に広がる部屋のそこらじゅうに弦が張られたような空気は、弾けば高い音を作り出しそうだった。指先を少し動かせば、この空気を引っくり返すことが出来そうなのに、それが許されない。そんな、緊迫とした空気。
「え、土方さん?……それなら幕府公安委員会の二人がお見えになっているからって聞いて慌てて客間にっ……て!!!隊長!?」
ドタバタと数人の隊士が引っ込むように逃げてきたのを見て、通りかかった山崎に話しかけたのはほんの15分前ほど。
ならいっか、いつもはそう思って自室へ戻るのに、聞き慣れたのに見慣れない上のお方のことが気になってしまった。頭の中に好奇心が浮かんだ以上、それを無視するなんて選択肢は現れなかった。
「(……どんなイカつい男かと思ったら、弱そうな奴ら。)」
それが、彼らへの第一印象だった。その姿は随分と若くてひょろりとしている。男も女も、身長はあるようだが、それを剣術に活かしているという訳ではなさそうだ。年齢は、あのマヨラーと同じくらいなのかもしれない。
それも当然、煽るように土方に笑いかけるその姿は、公安委員会の名に相応しいとは言えなかった。人の事を下に見てバカにするような煽り方は、苛立つというよりかは怒りを連想させた。馬鹿にされている、その言葉がよく似合っていた。
「これだから田舎者は……あぁ失礼?つい、」
胸ポケットから煙草を取り出そうとした土方を見て、呟くように零した意図的なその言葉。その瞬間、この部屋の空気は真っ赤に染められた。殺意、屈辱、怒り、苛立ち、負の感情が混ざりあって原型など見つけられないような感情は、俺達の今までをどうとも思ってないコイツらに腹が立ったから。それだけだ。こんなヤツらが幕府のトップにたっているのかと思うと、俺たちはクソみたいなことをしてきたんじゃないか、と思ってしまう。
「こちらからは以上ですが、何か質問は?」
貼り付けたような笑顔が汚くて、つい、弦をぶった斬ってしまった。
「それ、拒否権はないんですかィ?」
やってしまった、そう思った時にはもう遅い。
獲物を捕えるその目は、こちらに向いていた。
「ふふ、ないですよ。そりゃあ、仕事ですもん。与えられた任務を全うするのは義務ですからね。」
「それくらい、分かりますよね?」
(ねぇ、可愛くて無様で阿呆な子犬?)
あァ、苛つく。自然と、自分に腹が立った。
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作者名:ゆうひ | 作成日時:2019年9月25日 22時