53：ピアッシング･イヤーロブ ページ8
* 危険ですので真似は絶対にお止め下さい
「早速ですが､お耳に触れても宜しいでしょうか？」
『構わない』
失礼致します､とメイドがそっと左耳に触れる｡丁寧な触れ方の為かとても擽ったい｡
「初めにこちらのお耳からしましょう｡クリア様の場合､マーキングは不要ですので､先ずは消毒からで御座います」
ピンセットで綿球を挟み､精製水で薄めた消毒液を垂らされる｡液をたっぷり染み込ませた綿球で耳朶を丹念に消毒された｡ちなみにこの間､机の上ではニードルが消毒液で浸され､滅菌作業が行われている｡
改めて､彼女の手際の良さに脱帽する｡伊達に建国当初からメイドを勤めていないのだろう｡
「それではクリア様､僭越ながら私がピアッシングをさせて頂きます」
その言葉と同時に一点に熱が集まる｡緊張で気分が昂り､口が渇く｡その上､遂にフォーセプスが耳朶を挟んで宛てがわれてしまった｡
身体の構造上､今どこにニードルがあるのかは絶対に分からない筈だが､身体自体は全て分かっているかのようにその部分だけ皮膚が強張り､ピリピリとした感覚が全身に駆け巡っていた｡
何回か開けているとは言え､やはりこの瞬間はどうしても苦手だ｡
「……いきます」
きゅっと目を瞑る｡じわじわと熱が耳朶を､耳輪を侵蝕していく｡
『──ｯ！』
耳朶に強烈に感じる異物感｡それに対する痛みがじわじわと脳漿を刺激し､目頭が熱くなる｡
「クリア様ｯ申し訳御座いません！今すぐに中止致します！」
『いや……ｯ大丈夫だ､落ち着け｡深呼吸しよう』
一先ず落ち着いてもらおう｡自身も落ち着きたいし､今のままでは真面な判断も出来ない｡
ニードルが刺さっている所為で不自然に強張った身体が早く抜いてしまいたい､と急かす｡だがこのまま抜いてしまえば自身が痛い目を見るのは明白だ｡
波打つ心臓を押さえながら目一杯空気を吸い込み､限界のところでゆっくりと吐き出す｡
二度､三度……と繰り返し､漸く冷静になった頭でメイドを見る｡彼女は既に落ち着いており､俺の声掛けを待ってくれていた｡
「クリア様､続けても宜しいでしょうか」
冷静に冷静に､と心の内で唱えながら答えた｡
『あぁ､今度こそ頼んだ』
*
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作者名：Youtopia | 作成日時：2021年9月10日 22時
