50：悠然と狂詩曲 ページ5
*
俺は総統の後ろをただ黙ってついて行った｡あの日から何ひとつとして変わらない光景｡
それなのに､妙な違和感を抱いた｡
気付いた途端､周囲に蔓延る音がフェードアウトしていく｡
あの勇ましい大きな背中が､小さくなって遠ざかっていく｡
走って追い掛けても届かないような遥か先を､アイツはゆっくりと歩いていた｡
Gr｢──入れ｣
靄をも切り裂くようなバリトンの声に俺の耳は融氷し､じわじわと音を取り込み始めた｡
今の感覚は……一体何だ？
焦燥感が募ったまま､総統室に入る｡
いつ振りかの到来｡あの日は書類を届けた日且つ､コイツは最後通牒を受け取った日だったか｡
記憶を辿るように部屋の奥をちらりと見やる｡
奥に鎮座した玉座──に見えた､シングルソファの前の書斎机には見た事のある書類が山積みになっていた｡
コイツも伊達にただ書類に目を通していた訳ではなかったのか｡
Gr｢……見物は後にしろ｣
どうやら､ジロジロと見過ぎてしまったらしい｡
複雑な眼差しの総統に促されるまま､対面したソファに腰を下ろす｡
Gr｢さて､頭脳明晰なお前のことだ｡この戦争に於ける矛盾点とその謎は解けたのだろう？｣
総統の鋭い訊問に思わず唸る｡割り切って言ってしまえば解けたには解けたが､導き出した答えとその仮説が最悪のパターンでは､答えるにも答え難い｡
『……まあ､一応は』
自身でも感じた歯切れの悪い回答に､総統はあからさまに困惑した｡
Gr｢ほう？お前にしては珍しいな｣
コイツが思わず眉を顰めたのも無理はない｡兎にも角にも､一から順を追って説明する事にした｡
──
『─と､まぁ､俺はこの謎をこう処理した』
俺が立てた仮説を簡潔に纏めて説明する｡何を思ったのか､総統は考え込んでいた｡
Gr〈おいゾム､ロボロ聞こえるか？……至急総統室に来てくれ〉
バッと勢いよく面を上げたかと思えば､インカムで呼び出しを行った｡思わず小さく悪態を吐いてしまう｡
有り難いことに､聞き逃した総統の機嫌を損ねずに済んだが､饒舌気味に今の行動に対してのどうでも良い弁解を始めた｡
Gr｢実はな､こういった時のお前の勘はよく当たっているんだ｡お前自身はあまり気付いていなかっただろうが､俺がその第六感を真先に発見したんだゾ！｣
『はあ､そうか｡で､何故あの二人を呼んだ？』
その言葉を待っていた､と言わんばかりに､総統はフンと得意気に鼻を鳴らした｡
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作者名：Youtopia | 作成日時：2021年9月10日 22時
