56：コランダムの相違とその産物 ページ11
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Gr｢は？｣
らしからぬ素頓狂な声が室内に響く｡そこまで驚く事か､と小さく呼び掛けるものの総統の御口はあんぐりと開ききったまま返答は無かった｡
Gr｢……頭でも打ったか？｣
『ど突くぞ』
幾ら以前の要求が莫大なものだったとは言え､今回の要求に対してのこの言われ様｡失敬だ｡
『……話が逸れた｡早く俺に半分渡せ､グルッペン』
Gr｢……｣
ずっと怪訝な顔をしていた総統だったが､何を思ったのか突然すっと真顔になり､右──正確には左に着けていた紅玉のイヤリングを外した｡
──恐らく無意識なのだろうが､イヤリングを外す時に眼を伏せるその所作は酷く様になっていた｡
Gr｢ん､外したぞ｣
掌に乗せられた､紅く煌めくもの｡
俺のものとは対照的に､金を基調にしたフレームに､一際目を惹くルビーが嵌め込まれたスタッドピアス｡使い込まれているのにも関わらず､破損や腐食が見受けられないのは丁寧に扱っているからだろう｡
俺もイヤリングを外し､総統に手渡す｡
一体何をするつもりだ､と言わんばかりの眼差しを向ける総統を尻目に､俺はその空虚な穴に紅玉のイヤリングを埋め込んだ｡
『今回ばかりは流石に一筋縄ではいかない｡……正直､死ぬかもしれない』
何れにせよ､戦争を吹っ掛けた相手は列強諸国の一角｡互角以上の相手に楽勝は先ず有り得ない｡勝機は必ず有れど､辛勝且つ壮絶な結果になる事はもう目に見えていた｡
僅かな油断が命取りとなる｡
そんな死線が張り巡らされた舞台が用意された中､俺は総統のイヤリングの片割れを所望した｡
いとも簡単に言い放たれた単語に､総統の瞳がギラリと俺を睨み付ける｡
Gr｢……ソレを着けて､野垂れ死ぬつもりか？｣
そんな事は赦さない､と遠回しに言われている気がしたが､俺はこの戦場で情けなく野垂れ死ぬつもりも､栄誉ある死を択ぶつもりも端から無い｡
未だに向けられる鋭い視線に負けじと睨み返す｡
『そんなわけあるか｡コレは己自身への戒めだ』
Gr｢ほう……そうか｣
だからこそ､だ｡
今､護るべきものは何か｡今､戦うべき相手は誰か｡
──今､死ぬべき
否､違う｡
今､総てを護る為に生きる｡
Gr｢覚悟を決めたか｣
いつの間にか､総統の耳朶には蒼玉のイヤリングが埋め込まれていた｡
紅蒼二色の煌めきが乱反射する｡
Gr｢最優先命令だ｡絶対に生きろ｣
『ハイル･グルッペン』
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作者名：Youtopia | 作成日時：2021年9月10日 22時
