二十七話 ページ27
『(志麻さん!?何でこんな所に…)』
「ま、待って下さい!逃げ出した生徒は必ず捕らえますので、どうか猶予を!」
志「猶予を?何だ、くれってか。お前はいつ俺に命令できるほど偉くなった?」
「ち…違っ……」
志「安心しろ、家族も直にあの世へ連れて行く。お前だけ天国には行けないだろうがな」
待って下さい、と焦る男性を志麻さんは冷徹な目で見つめ、振り上げていた右手を無慈悲にも降ろしてしまった。
グサグサと大量の槍が男性の体を貫き、悲鳴を肉ごとグチャグチャと抉り取る。
掠れる様な泣き声が聞こえた後、離れていく傭兵達の中心で男性だったものは静かに事切れていた。
志「あ、A逃げちゃったか…。ちゃんと見届けてあげたら良かったのに」
傭兵「宜しいのですか?あの者を逃して」
志「元々それが目的だったからな。"不安"は少ない方が良い。ゲートを開けておけ、彼女を返してやらねば」
傭兵が返事をして部屋を出ていくと、志麻はローブを深く被り直してニヤリと笑った。
***
偶然外に繋がる通気口を見つけ、森の中に戻れたのは良いものの、顔色は暗くなるばかり。
『(あんな事するような人じゃ…)』
もしもこの世界が主人公を中心に回っているとしたら、可能性が無い訳じゃない。
ゲーム内の人格も物語も大きく変わってきてしまう事を、私は誰よりも意識しておかなければいけなかった。
そこまで考えて私はブンブンと左右に頭を振り、押し寄せてくる不安を脳内から追い払う。
『(今は落ち込んでいる場合じゃない。早く学園に戻ってさっきの事を伝えないと…!!)』
また駆け出したその時、向こうの方で淡く輝く小さな輪っかが見えた。
近づけばどんどん大きくなって3人位なら同時に入れる程の大きさになると、輪の向こう側から心地よい風が流れてくるのが分かる。
『(何処かに繋がってる…?)』
不審に思ったが、今の状況では取り敢えず手当たり次第、試してみなくてはいけない。
罠だと分かりつつ、恐る恐る手を入れてみると、心地よい風と気温が肌から伝わってきた。
『(不安だけど…試してみるしかないよね。せーの…!!)』
私は意を決して輪っかに身を通す。
誰も居なくなった森は、また霧の中に紛れるのだった。
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作成日時:2022年1月17日 5時