弍拾弍−君の掌が ページ22
＊
煉獄の死から、四ヶ月が過ぎようとしていた頃。A達は鍛錬をしながら、合間に入る鴉の司令に従いA、炭治郎は新しい刀を腰に差して任務に赴いた。煉獄の死は悲しさを含みながらも、彼が与えた言葉が努力の根底となっていた。
「A」
「？」
「Aも、禰豆子も、必ず俺が人に戻すからな」
何度も、何度も、炭治郎はそれを口にする。禰豆子を人に戻す。それはAの中でも、断固たるものだ。けれど、Aは己が人に戻ることに、何故か頷くことが出来なかった。理由は分からない。何となく、ただ何となくだ。これから、理由が見つかっていくとは思う。でも、どうして、こう思うのか皆目見当もつかなかった。
「…A？」
Aの複雑そうな匂いを嗅ぎとったのか、炭治郎は心配そうに彼女を見た。Aはハッとして、笑った。
炭治郎と共に陽の下で笑い合いたい。陽光を浴びながら、きらきらと笑う炭治郎を見たい。そう思っている。のに。
…今、この事を考えても分からないままだ。もう少ししたら、きっと人が鬼かを選ばなければならない時があるはずだ。その時にちゃんと考えようと、Aは思った。
自分の判断を、間違えたなど思いたくないから。
そっと、炭治郎の手を取る。
「だ、いじょ、うぶ」
「…そうか！…ん？A、ちょっと掌を見せてくれ。」
Aの両手を掴み掌を見始めた炭治郎。じっと見つめる炭治郎に、Aは何だか恥ずかしくなりながらも、彼が口を開くのを待った。
「
そう。Aの掌には胼胝…剣だこが出来ていたのだ。鬼である為、傷は全て再生し回復していたが、突然現れたそれに驚きを隠せなかった。
(もしかしたら、もう人に戻りつつあるのか？うーん……。珠世さんに手紙を出そう。きっと何か分かるかもしれない。)
そう思いながら、無言で炭治郎はAの掌を撫でた。この時、Aは耳まで真っ赤にして耐えていた。心の底から、炭治郎の視線が自分に向かないでくれと願った。けれど、それは虚しく＿＿。
「A………」
「！！」
手を握ったまま、炭治郎がAを見た瞬間、二人して硬直した。見つめ合ったまま。炭治郎はAの真っ赤な顔を見て、自分のしている事が分かってきた。じわじわと熱が顔に集まってきて、ボフッと爆ぜた。
「ご、ごめん！！」
炭治郎の声と鈍い音が蝶屋敷に響いた。
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作者名：僕達はエンジェル | 作成日時：2021年9月25日 14時
