弍拾−何の為の刃だ。 ページ20
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伊之助動けと炭治郎が叫ぶ。煉獄の為にと。伊之助はハッとしたように動き出す。けれど猗窩座は、己の腕を引きちぎって逃亡した。太陽が怖いからだ。
そんなに恐ろしいか、太陽が。それよりも明るく、照らしてくれた彼の人よりも。Aは足が縺れて転んだ。ガリガリと、地面を削った。爪が割れても。剥がれても。だって何も出来なかった。もっと早く気付いて伝えていればと、後悔した。
炭治郎は猗窩座に向かって、日輪刀を投擲した。
「逃げるな卑怯者！！逃げるなァー！！」
炭治郎が叫ぶ。逃げるな、そう、逃げるな。
「いつだって鬼殺隊はお前らに有利な夜の闇の中で戦ってるんだ！！生身の人間がだ！！傷だって簡単には塞がらない！！失った手足が元に戻ることもない！！」
それをわかっていて、何故そう簡単に人を傷つけることができる。何故踏みにじることが出来る。何故笑うことができる。何も戻らない。帰ってこない。泣いても、もがいても。何も、何も。
「煉獄さんの方がずっと凄いんだ！！強いんだ！！煉獄さんは負けてない！！誰も死なせなかった！！戦い抜いた！！守り抜いた！！お前の負けだ！！煉獄さんの、勝ちだ！！」
最期の最期まで守り抜いた。炎柱 煉獄杏寿郎は。誰よりも勇ましく、眩しい人だった。そんな人が、何故、何故死なねばならない。
陽光が差し始めた。Aも鬼だ。太陽は毒だ。逃げなければいけない。移動しなければ。けれど、動きたくなかった。煉獄の近くに居たかった。
「もう、そんなに叫ぶんじゃない。腹の傷が開く。君も軽傷じゃないんだ。それに、日向妹。君も早く影になる場所に移動しなさい。君達が死んでしまったら、俺の負けになってしまうぞ。」
嫌だ嫌だと、首を振るA。
「…猪頭少年、彼女を連れて行ってくれるか？」
伊之助は震えながら、Aの襟を掴んで引きずっていった。Aはまるで幼子のように涙を流しながら抵抗するも、貧血やら疲労やらで体は言うことを聞かず、脱線した列車の影に連れて行かれた。伊之助は借りていたAの羽織を、Aの頭にばかりと雑にかけた。そして、彼は煉獄と炭治郎の元へ歩いて行った。
嫌だ、嫌だよ。連れて行かないで、つれていかないで。あの人を。どうしようもない怒りと、悔しさ。不甲斐なさ。様々な感情がAを潰していく。岩のように重くのしかかって。
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作者名：僕達はエンジェル | 作成日時：2021年9月25日 14時
