拾伍−彼は悪夢だと嘆くのだ ページ15
＊
＿＿寸刻前。車両諸共、魘夢の頸を斬り落とした直後に遡る。汽車は脱線し、多くの人が外へ投げ出された。その中で、炭治郎は一人、腹部の痛みを我慢しながら呼吸をしていた。
空を見れば、瑠璃色が広がり、星が散らばっていた。夜明けが近づいてきているのだ。
(Aは、どこまで飛ばされたんだろう。不安で心配してる匂いがしていたから、早く安心させてやりたい。それに、夜明けが近いから、早く陽の当たらない場所に……怪我人も助けないと)
そう思っても、体は言うことを聞かない。呼吸を続けるだけで精一杯で。まだ見ていない禰豆子も、Aも、善逸も、煉獄もきっと無事だと信じるしかない。
だから、今は呼吸を整えることを考えようと、炭治郎は深く息を吐いた。
＊ ＊
炭治郎から少し離れたところに、魘夢はいた。体の原型はとどめておらず、頸が斬られたことにより、少しずつ崩れ始めていた。
彼の計画は完全に潰えた。汽車に乗っていた、煉獄、炭治郎、禰豆子、善逸、伊之助、そしてAの手によって。誰一人喰らうこともできず、彼は斬られた。
魘夢にとって、これこそが悪夢のようだった。
乗客は二百人。人質だった。けれど、それでも魘夢は押され、抑えられた。煉獄がいたから。これが柱の力かと圧倒された。
善逸。彼もまた然り。眠ったまま、乗客を守った。雷の呼吸の使い手である彼は、とても速かったのだ。
禰豆子。鬼であるというのに、敵であった。人を守る鬼が、何故鬼舞辻無惨に殺されぬのかと、疑問だった。呪いがあるはずなのに、と。
そうだ、あの女、あの女も鬼だった。と魘夢は嘆く。Aも、鬼だ。けれども、彼にとっては、よく分からない気配だった。人とも違い、鬼とも違う。中途半端な。しかもまた、Aの使う呼吸が、気持ちが悪かった。初めの方の技も、鋭さがあるものの、優しいもので気持ち悪かった。けれど、次のはどうだろう。まるで、まるで。
太陽と月を同時に見ているようだった
気味が悪い。嗚呼、嗚呼＿＿＿。
そして、魘夢は思う。己の失敗の一番の原因は、初めに術を破った炭治郎だと。目の前で、必死に呼吸をする炭治郎に向かって手を伸ばす。
そして、伊之助。彼に関しては、猪の被り物が邪魔をして、魘夢の術とは相性が悪かった。並外れた勘も鋭くて。
嗚呼、嗚呼、嗚呼。
なんて悪夢だと、嘆く。
ボロボロと崩れ、消えた。
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作者名：僕達はエンジェル | 作成日時：2021年9月25日 14時
