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「Aちゃん発見」
『おわ!?』
猫よろしく肩を跳ね上げた私に「ちゅーっす」と独特の挨拶をする選手、乙夜影太。いっつも気づいたら背後に立ってたり、隣に座ってたりする。
『乙夜…頼むから気配を出してくれない?』
「ごめん。そんなに驚くと思ってなかった」
持っていた掃除機を足の小指に落とす、なんて考え得る限りの最悪の未来もあったわけだ。そしたら恨むぞ私は。なんて内心乙夜を責めるも、そんな私のことなんて気にもとめず。乙夜は私の肩に顎を乗せてきた。乙夜、絶対反省してないでしょ。
綺麗なお顔が眼前いっぱいに広がる。なんだか青い監獄の選手たちは距離感が近い…ような気がする。
「Aちゃん、いつもと違う匂いすんね」
『うわマジか…たぶん煙草だね。ついさっき吸ったから。ちゃんとファブったんだけどな』
「……Aちゃん、煙草吸うの?」
『あれ。言ってなかったか』
「初耳」
心底以外だ、というように一つ瞬きをした乙夜。ずいぶん敏感だな。というか普段の私の匂いを知ってる事に驚いた。いつもと同じファブリーズを満遍なく掛けたつもりなんだけども。
すんすんと匂いを嗅いでいた乙夜は、ふと何か新しい悪戯を思いついた猫のような顔をする。背筋を猛烈に嫌な予感が走った。これは逃げるが吉なやつだと、脳が即座に指令を送ってくる。
『じゃあね乙夜。私は他の場所の掃除に、』
「煙草ってどんな味すんの?」
『あー、一生知らなくて良いよ。百害あって一利なしだから』
「ふーん?」
なお、興味深かそうに見つめてくる乙夜から顔ごと視線を外そうとする。けど、乙夜がそれを許してくれなかった。顎を捕まえられてぐいっと乙夜の方を向かされた。
『ちょっと…』
抗議してやろうと口を開けたら、唇にふんわりとした感触が襲う。ドアップに、乙夜1つたりともパーツのズレがない完璧な顔面。思考回路が仕事を放棄して、なにをしているのかを理解するのが滞った。
口の中の空気が、吸われてく。口が乾いてく。
「うわ、なんか苦」
『…………は?』
べ、と眉間に皺を寄せて舌を出す乙夜が視界に入る。ようやっと硬直していた体が溶けて、けれども思考がまとまらない。下唇を舐めて、苦言を呈する乙夜が意地の悪い笑みを浮かべていた。
__この人、今私にキスした…?その結論に至るまで、たっぷり十秒かかった。
『な、は、………思春期男子。一時的な衝動に身を任せるのは駄目だって習った?』
「保健の授業始めたよ」
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テディ - ひまさん» 最高の小説なんて嬉しすぎるお言葉…大感謝です、ありがとうございます。単純なので褒められるとやる気爆上がりします!更新頑張ります〜!! (2023年3月6日 19時) (レス) @page9 id: cd440b7134 (このIDを非表示/違反報告)
ひま - 小説見あさってたら最高の小説を見つけてしまった…めっちゃ続き楽しみです!更新頑張ってください! (2023年3月5日 21時) (レス) @page9 id: 34d7bd651a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:テディ | 作成日時:2023年2月23日 15時