でも…もう、疲れた。 ページ37
馬鹿みたいに四肢をばたつかせた。
がんっと足が何かにぶつかった気がして、電気が走り抜けたように痛みが走る。
「ッ――」
がし、と何とか手すりの下段をつかめた。
だが生憎、私に体力なんてない。
覚悟を決めろ、阪月 A。
死のうが死ぬまいが、私の運命だ。結果だ。
死んだとしても、私が今までやってきた悪事のしっぺ返しだと思えば、甘いものさ。
そうは思うが、なかなか心を落ち着かせられない。
冷静にならなきゃとはわかるのに、心と裏腹に頭の中はどんどんパニックになってしまう。
あぁ、もう発狂しそうだ。
どんどん手のひらから汗が浮かんで少しずつ滑っている手。
握り直したいけど、腕が早くも限界を訴えている。
普段筋トレもしていない細腕では、自分の体重は支えきれない。ぎちぎちと、腕の中の筋肉が悲鳴をあげているのが聞こえた。
「…っぇ」
思わず動揺に声が出る。
その声は震えていた気がする。
血が引いて、冷たくなった手。その手を優しく包み込んでいるのは、
紛れもない、クリスだった。
「…やめろ…上がって来い…」
泣きそうで泣けない、そんな顔。
ぐしゃりと歪んだその顔は、すべてを物語っているような気がした。
思わず気が緩み、ずるりと手が手すりを滑り落ちた。
悲鳴が出そうになったけど、その手をすんでのところでつかんだのはクリスの手だった。
「っ―…!」
いくらクリスと言えど人ひとりの腕を引っ張り上げるには無理がある。
ベランダの手すりが高い位置にあるせいで、クリスが道連れになることはない。…ないけど。
それでも、恐らくクリスの筋肉を傷めているのかもしれない。
「何してんだ!早くこっち助けろ!」
クリスが家の中に向かって叫ぶ。
がたがた、と音がして数人が駆けつけてきた。
あぁ、畜生。甘えてしまうじゃないか。
足元に風を感じて、心臓が縮み上がる。
思わず下方を見てしまって、すぐに後悔した。
今落ちたら、真っ逆さまに死ぬ。
嫌だ、怖いのは嫌だ、死にたくない、死にたくない。
「ごめん、俺が悪かったから、死ぬな。」
途端に真っ白になる頭の中。
そしてフラッシュバックされる、こいつの幾多の謝罪。
その間にも、援軍のおかげで私の体がぐいぐいと上に引っ張られていく。
助かるんだと不覚にも覚えた安心感と、このままではだめだという心の中の葛藤。
先ほどから震えやまない体に、ぎゅぅと力を籠めた。
いつだって許してきた。
こいつが謝れば、何でも許した。
でも…もう、疲れた。
51人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
∧∧ネコミミ∧∧@玉ねぎ@オニマス(プロフ) - にゃん舞姫さん» 申し訳ございません!今更コメントに気付いてしまい本当申し訳ない限りです。にゃん舞姫様には本当にいい読者様に恵まれたといつも感激しております。本当にありがとうございます。どうか、これからもよろしくお願いします。本当にありがとうございます! (2014年7月1日 0時) (レス) id: ce568da1b2 (このIDを非表示/違反報告)
にゃん舞姫(プロフ) - パンドラダイアリー・一冊目おめでとうございます!!とっても、面白かったです><勿論二冊目も読ませていただきます。楽しい時間をありがとうございました!! (2014年4月29日 15時) (レス) id: 201acc661a (このIDを非表示/違反報告)
うにゃ@FUNASSIIIIIIIIIIII(プロフ) - にゃん舞姫さん» 母さんはおいしいと言って普通に食べてましたがね。まるで別世界に行ったような地獄な感覚でした。 (2014年4月7日 10時) (レス) id: 84b680cc3c (このIDを非表示/違反報告)
にゃん舞姫(プロフ) - 蛙ってwwそれもし食べてたら・・・(p・Д・;)アセアセ、お母さん凄すぎます!! (2014年4月6日 0時) (レス) id: 201acc661a (このIDを非表示/違反報告)
∧∧ネコミミ∧∧@元うにゃ(プロフ) - にゃん舞姫さん» いつも読んでくれてありがとうございます!作者も偏食です。この前はお母さんに騙されて蛙食わされそうになりましたYO!そういわれると本当に頑張れます、感謝! (2014年4月5日 18時) (レス) id: 5f12e20803 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:うにゃ | 作者ホームページ:
作成日時:2013年11月29日 22時