【閲覧注意←】パンドラダイアリー。【妄想オリジナル】

弱虫な自分へ― ページ35

「もう、終わらせよう。」

思ったよりも冷静な声が出ていた。
荒波のあとの海のようだ、と自分で思う。
それほど、心の中は穏やかで落ち着いていた。

もう笑えないと思っていた。
だけど、きっと私は今すごく自然に笑えてる。

「もう誰にも、二度とこの惨劇を繰り返しちゃだめだ。」

分かった？と首を傾げる。
誰もが呆然と、間抜けに口を開いたまま私を見つめている。
私も驚いている。
どうしてこんなに、私は落ち着いているんだろう。

ふと、窓の外を通り過ぎる赤いライトが目に入った。
…あのバカ。私の気が済むまで待っているつもりだったのか。
仕様がなく感じたやさしさに、心の中で苦笑した。

一歩、と試しに歩を進めてみた。
動揺が走る。でも誰も動かない。
…なんだろう、これ。
逆にこっちが動揺してしまう。

「逃げる、つもり」

高い声が聞こえた。
凛と通る声。
いつもなら煩わしいこの声も、今は素敵なバックグラウンドミュージックだ。

「…アイリーン」
「都合のいい、奴…言いたいだけ言って、自分ひとり逃げて…後始末、放置なんて…弱虫のすることよ…」

もう猫かぶらなくていいのか、なんていう言葉は聞くだけ無駄なようだ。
真っ青な顔に、引き攣った笑み。
もうこいつもここまでだな、と瞬間的にそう理解した。

「…俺さ、実は結構お前のこと憧れてたんだけど。」

自慢できるほどの体系と、強い意志。
何が何でも欲しいという心の強さ。
一度転んだらただでは起きないという強靭さ。
常に美しくあろうとする自分への愛。
努力を怠らない真面目さ。

私にはまったくないもので、あぁ何度も羨ましいと思った。

でも、なりたくはないと同時に思う。

「今あんたが言った言葉、もう一度よく考えてみたら？」

あんた自分に当てはまるはずだよ、と言えば押し黙る。
好きなことやりたいことだけをやって満足して
後先考えず行動して、結果は全部放置
自分一人だけいい思いをして、逃げて。

「もう一度、自分の何がいけなかったのか考えてみな。」

じっと、その姿を瞼の裏に、脳の中に、心の中に、刻み付けるように見つめた。
青ざめて、震えて、まるでこっちが悪者みたい。

そして用はないというように踵を返した。
三人の男子を押しのけ、ベランダへ歩く。
心地よい風が吹いた。まるでどうにか私の足をとどめようとしているみたいに。

でも、

「ダメ。」

足は迷うことなく、ベランダに踏み出した。
あぁクソ、恐怖で体が震えてきたじゃないか。

弱虫な自分へ―

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