「幸せを全部、ありがとう」 ページ26
痛いほどの沈黙の中、私はあらためて傍にあった椅子に腰かける。
革張りのこの椅子にも、もう座れないんだなぁと思うと少しだけ目頭が熱くなった。
涙がにじんできそうな顔をふる、と慌てて横に振る。
あとどれだけ会話を引き延ばさなきゃいけないんだろう。
いまだに龍志からOKのサインが出ていない。
龍志曰く、もういつでも準備オッケーになればサインを出すらしい。
そのサインは、レッドライト。
よくどこにでも売っていそうな、ペンより小さい形のペンライト。
そこから発されるレッドライトは、白昼でも簡単に視認することができる。
そのうえ、仮にこの中の誰かがそのライトに気付いたとしても、どこかの子供が遊んでいるとしか思わないだろうから。
だから、私に課せられた使命は、その合図が出るまで会話を引き延ばして、引き延ばして、引き延ばすこと
でも正直そろそろ辛くなってきたし、そろそろ話すこともなくなってきた。
最初のあたりは、1日喋っても余裕だと確信していた。
でも、今になってようやく気付いた。
彼らを目の前にして、私の頭の中にあったプランはすべて消えて真っ白になってしまった。
こんなことなら、練習しておけばよかった…。
私の話が終了したのかと思っている数人が、気まずそうに眼を合わせた。
その他の数人は、居心地悪そうに身じろぎする、
その衣擦れの音を耳にしながら、私は目を閉じた。
「…なぁ。」
急に私の口から発された声に、おそらく全員がびっくりしたのだろう。
複数の衣擦れが一気に聞こえた。
やはり、目を閉じると耳が過敏になるというのは本当だったんだ。
「誰でもいいから、俺の家族に伝えておいてくれないか。」
椅子を反対方向で座り、背もたれを半ば抱きしめるような恰好。
背もたれの天辺に腕を置き、それを枕にするように頭を休めた。
少しだけ、じわりと涙が溢れてきた。
「頼むから、俺がいなくなったことを責めないでくれって。」
きっと母さんのことだから、後を追ったといってもおかしくないほど自分を責めて責めて、心労から病気になって死ぬんだろうな。
そして父さんを支える人がいなくなって、父さんも病気になるかも。
そしたら姉さんが生きていけない…なんて、まるでドミノ倒しみたいに、人間が言葉通りばたばた死んでしまうんだろうなぁ。
「俺は、この家に生まれてきて幸せだったから。すごくすごく幸せだった。」
駄目だ、涙が出てきちゃった。
腕に両目を押し付け、隠す。
「幸せを全部、ありがとう」
こんなになっても私、まだ愛したりなかったんだ。→←「俺は最初っから一人ぼっちだ。」
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∧∧ネコミミ∧∧@玉ねぎ@オニマス(プロフ) - にゃん舞姫さん» 申し訳ございません!今更コメントに気付いてしまい本当申し訳ない限りです。にゃん舞姫様には本当にいい読者様に恵まれたといつも感激しております。本当にありがとうございます。どうか、これからもよろしくお願いします。本当にありがとうございます! (2014年7月1日 0時) (レス) id: ce568da1b2 (このIDを非表示/違反報告)
にゃん舞姫(プロフ) - パンドラダイアリー・一冊目おめでとうございます!!とっても、面白かったです><勿論二冊目も読ませていただきます。楽しい時間をありがとうございました!! (2014年4月29日 15時) (レス) id: 201acc661a (このIDを非表示/違反報告)
うにゃ@FUNASSIIIIIIIIIIII(プロフ) - にゃん舞姫さん» 母さんはおいしいと言って普通に食べてましたがね。まるで別世界に行ったような地獄な感覚でした。 (2014年4月7日 10時) (レス) id: 84b680cc3c (このIDを非表示/違反報告)
にゃん舞姫(プロフ) - 蛙ってwwそれもし食べてたら・・・(p・Д・;)アセアセ、お母さん凄すぎます!! (2014年4月6日 0時) (レス) id: 201acc661a (このIDを非表示/違反報告)
∧∧ネコミミ∧∧@元うにゃ(プロフ) - にゃん舞姫さん» いつも読んでくれてありがとうございます!作者も偏食です。この前はお母さんに騙されて蛙食わされそうになりましたYO!そういわれると本当に頑張れます、感謝! (2014年4月5日 18時) (レス) id: 5f12e20803 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:うにゃ | 作者ホームページ:
作成日時:2013年11月29日 22時