30.王子様じゃない ページ30
『……うわ、懐かしい』
よく、昔はこの公園に遊びに来ていたものだ。
でも、いつも独りで遊んでいたっけ。
お母さんが忙しくて……。それで。
変わらない風景に、思い出を重ねる。
古いブランコと、小さな滑り台。
砂場の近くに鉄棒があって、その奥にはベンチと、その上には例の桜の木がある。当然、桜は咲いていないけれど。
とりあえず、奥のベンチに腰を掛けた。
この時間帯からか、子供はいない。
寒い。寒い。
ひゅぅっと、冷たい風が私の肌を撫でる。
それに当たるほど私の肌は粟立ち、体を冷やしていく。
……なんだろう。
この感覚、知っている。
寒くて、寒くて、
でも、お家に帰っても誰もいないから。
独りでいたくなくて、でも、友達と遊べなかった時もあって、
でも、毎日楽しかった……?
ううん、独りじゃなかった。
ううん、毎日友達と遊べてた。
あれ?
あ、れ?……
頭がずきずきと痛む。
脳裏が焼き付いているように、炎であぶり出されているのに感じる。
何か、忘れている?
いや、忘れてなんかない。
だって今まで、普通に過ごしてきたんだもの。
ーーーー「_____が、わたしのおうじさま!」
ーーーー「おうじさまは、わたしをたすけなきゃいけないの!」
ーーーー「わたしは、おひめさま!おうじさまとおひめさまは、いつかむすばれるのよ!」
傲慢に、そして自信満々に話す、話している……
わ、たし?……
このベンチの隣にいるのは、小さな男の子。
悲しげに俯いている。
当然、幻覚だ、何てわかっているのに。
どこか、どこか……。
「Aちゃん」
声がした。
気づけば目の前に相川くんがいた。
それも、先程と同じように、寂しげな顔。
そんな顔で、そんな悲しい声で、私を呼んだ。
「“お姫様は、いつか、王子様と結ばれる”……だっけ?」
な、なんで?
それは、さっき聞いた言葉。
走馬灯のような、走馬灯じゃないような、
記憶が駆け巡ってくる。
自分が、自分じゃないみたいで。
怖い。怖い。
なんなの、これ。
知らない。
相川くんは、どうしてそんな悲しそうに笑ってるの?
「君はいつかの日、そう言ってたよね。
だけど僕、」
.
.
「君の、王子様なんかじゃないから」
それは、非情に、無情に、残酷に、無惨に、痛感に、感傷に、
紡がれた、ひとつの言葉だった。
678人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
いるよ - あああああああああああ!!!最高です!!なんか最後のところ泣いちゃいましたwヤンデレにハマってしまった…素敵な作品ありがとうございました! (2022年12月7日 0時) (レス) @page45 id: 7464634473 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ - とてもよかったです!その後話がもっと欲しい! (2022年3月9日 1時) (レス) @page45 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
月次 - 僕の好みどストライクのヤンデレです!とっても面白かったです。これでもっと想像の幅が広がる…!ありがとうございました! (2021年3月28日 9時) (レス) id: 34cc41e784 (このIDを非表示/違反報告)
一ノ瀬かるら(プロフ) - 心臓が泣き叫んでおります大歓喜 (2020年8月23日 0時) (レス) id: 018ad8bd5d (このIDを非表示/違反報告)
鶯餡(プロフ) - 雨月冷さん» 本当にいつもありがとうございます……!!マーライオンwwwそのくらい泣いてくれたんですね!嬉しいです!私も目からマーライオンです!はい!楽しみに待っていってください! (2020年2月25日 7時) (レス) id: 6bb0fe0dd0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:鶯餡 | 作成日時:2020年1月6日 22時