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「_____今日もありがとうございます」
……また、その言葉だ。
丁寧に手を合わせて、目を閉じている。
普通に外見は綺麗な男だ。
線が細くて、今にも倒れてしまいそうなほどだが。
いつもなら、もう帰っているのに。
閉じていた瞳は開き、じっと俺の方向を向いていた。おかしいな。人には見えないはずなのに。
「…………神様、いますか?」
ば、ばれてる。
どういうことだ?どうして人間に俺が見える?
おかしい。そんな仕掛けなんてしていないのだが。
「いないのなら、いいんです。でも、もしいたら、」
苦しげな声だ。
ぎゅっ、と自らの服をつかんで、泣きそうな顔をあげる。
「ごめんなさい」
初めて、ありがとう以外の言葉を告げた。
掠れた泣き声だ。初めて聞いた。
彼の美しい声しか聞いたことがなかったから。
「……きっと、きっと、これから、もう青くて美しい空は見られないと思います」
……………え?
どういうことだ。
青年の言葉の意味がわからない。
「僕のお父さんもお兄ちゃんも徴兵に出されて、僕も明日、この地を立ちます」
徴兵……。戦争があるのか?
あぁ、人間はなんておろかなんだ。
戦争なんて。していいことと悪いことの区別もつかないのか。
目の前の青年も、戦争にいくんだ。
こいつは、こいつは違うって、信じてたのに。
「ねえ、空の神様。ひとつだけ、お願いがあります」
もう、聞きたくない。
汚れた人間の話なんて。願いなんて。
「これ以上わがままも願い事も言いません。だから、だから……」
.
「貴方の姿が、見たい。あわよくば、貴方と親友になりたいです」
「ひとりぼっちの僕に、どうかご慈悲を与えてください。」
「孤独のまま旅立ちなんて、したくないんです」
あぁ、人間って、本当に……。
「………………願い事、ひとつじゃないじゃん」
何故か俺は笑っていて、人間に自ら姿を見せていた。人間だなんて大嫌いだったのに。この男は、嫌いじゃない。
男の目は大きく開き、その瞳には憧れの意が現れている。
フフ、驚いてる驚いてる。
空はからからと晴れていた。
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ちょこ - とてもよかったです!その後話がもっと欲しい! (2021年9月26日 13時) (レス) @page42 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
しろむ(プロフ) - 2ヶ月ほど占ツクを離れていたら、完結していてビックリです!うぐいすあんさんの作品大好きです。今回も素晴らしい小説ありがとうございます (2020年1月31日 21時) (レス) id: 3eaa2e0c73 (このIDを非表示/違反報告)
鶯餡(プロフ) - すばるさん» 私もすばるさん好きです〜!そらるさんの可愛さを最大限引き出せましたかね!?こちらこそ読んでいただきありがとうございました! (2019年12月19日 13時) (レス) id: 6bb0fe0dd0 (このIDを非表示/違反報告)
鶯餡(プロフ) - 雨月冷さん» いつもありがとうございます!優勝できましたイエーイ()今回はほんわか系を書いていたのでどうしても過去編がシリアスになってしまいました……。はい!楽しみにしていてくださいね!ご満足できるような作品を作れるよう頑張ります! (2019年12月19日 13時) (レス) id: 6bb0fe0dd0 (このIDを非表示/違反報告)
鶯餡(プロフ) - らfkー(らふきー)さん» ありがとうございまrrrrrrrrrrrrrrrrrrす!過去編はかなぁり凝っているので、泣いていただくほどのお話ができてとても光栄です! (2019年12月19日 13時) (レス) id: 6bb0fe0dd0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鶯餡 | 作成日時:2019年11月10日 22時