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それは、小さな家の、貧しい暮らしだった。
それでも私は幸せだった。
「A!狩りをするには息を殺して、自然になるのよ!」
強気で短気で、それでも麗しく気高い花のようなお母さん。
日焼けを知らないような真っ白な肌なのに狩りが得意で、いつもサラサラの長い髪をひとつにまとめていた。
「あ!こら!女は狩りなんてしてないで家事を覚えなきゃいけないんだぞ!」
こちらも強気で、一歩も引かないという空気を放っているお父さん。
その鍛えた体はたくましく、人並み以上の力を持っていることが手に取るようにわかる。
二人は、互いに旅人だった。
旅の途中に出会い、恋に落ち、結婚をして私を産んだのだそう。
喧嘩ばかりの夫婦だったけど、確実にそのなかに愛はあって、私はそれを見るのが楽しかった。
両手を同じタイミングで引いてくれる二人に憧れを抱いて生きてきた。
そして、この村にやって来た。
悲劇の大風雨はその際に本を読んで学んだ。
……でも、この村は私たちを歓迎はしなかった。食料や土地など、飢えていたのだろう。皆痩せ細った体をしていて。
どうやらここ最近豊作に恵まれないんだそう。確かにそんな中旅人が移住してきたら嫌になるだろう。
お母さんとお父さんはそれを受け入れつつも、私をきちんとそだててくれた。
14歳。お母さんとお父さんが死んだ。流行り病だった。
家を出た。でも、村は出たくなかった。こんなガキが旅なんてきっと無理だったから。
私は狩りをして生きた。ずっとずっと、一人で。
15歳。生け贄として選ばれた。
そして、神の世界に繋がる海へ飛び込んだ。
どうして私だけこんなにもむごい運命だったんだろう。なにがいけなかったんだろう。
神なんて信じられない。
見て見ぬふりをして来た神なんて、大嫌い。
どれだけ力があろうと、世界を滅ぼせるほどの神だろうと、私を救ってくれなかった神を永遠に恨むだろう。
ずっとずっと独りで。
「A」
名前を呼ばれた。
ひどく暖かな声だ。何回も聞いて、聞き慣れすぎた声。
最初は憎くてたまらなかった声。
次第に心地よくなってきた声。
優しくて優しくて、日溜まりのように包んでくれた声だった。
これは夢?
「かえりたい?」
答えのない問いかけは、ただ静かに、夜の闇の中に消えていった。
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ちょこ - とてもよかったです!その後話がもっと欲しい! (2021年9月26日 13時) (レス) @page42 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
しろむ(プロフ) - 2ヶ月ほど占ツクを離れていたら、完結していてビックリです!うぐいすあんさんの作品大好きです。今回も素晴らしい小説ありがとうございます (2020年1月31日 21時) (レス) id: 3eaa2e0c73 (このIDを非表示/違反報告)
鶯餡(プロフ) - すばるさん» 私もすばるさん好きです〜!そらるさんの可愛さを最大限引き出せましたかね!?こちらこそ読んでいただきありがとうございました! (2019年12月19日 13時) (レス) id: 6bb0fe0dd0 (このIDを非表示/違反報告)
鶯餡(プロフ) - 雨月冷さん» いつもありがとうございます!優勝できましたイエーイ()今回はほんわか系を書いていたのでどうしても過去編がシリアスになってしまいました……。はい!楽しみにしていてくださいね!ご満足できるような作品を作れるよう頑張ります! (2019年12月19日 13時) (レス) id: 6bb0fe0dd0 (このIDを非表示/違反報告)
鶯餡(プロフ) - らfkー(らふきー)さん» ありがとうございまrrrrrrrrrrrrrrrrrrす!過去編はかなぁり凝っているので、泣いていただくほどのお話ができてとても光栄です! (2019年12月19日 13時) (レス) id: 6bb0fe0dd0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鶯餡 | 作成日時:2019年11月10日 22時