境界の果て【派生作品】 (ページ26)

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……ということがつい数ヶ月前にあったのを、玄関収納に雑に押し込まれたボロ傘を見て思い出した。
ちょうどボクらは新年度に向けて春の大掃除をしていたところで、この傘も学クンが適当に仕舞い込んだ荷物やらゴミやらと共に発掘されたモノだった。あの日持って帰ったはいいものの、処分方法がややこしくて結局後回しになっていたのだ。

「あれ？そんなのどこから出てきたんすか？」

動きを止めていたボクに学クンが首を突っ込んでくる。彼の方もやはりこの傘のことはすっかり忘れていたらしく、無から湧いてでたかのような傘に首を傾げていた。

「ホラ、こないだ急に雨降ってボクが傘になってあげた日にキミが拾った傘だよナ？」

「……あ！思い出した！粗大ゴミの処分の申込みが分かんなくてほったらかしてたヤツっすね！ちょうどゴミもいっぱい出てるし、まとめて捨てちゃいましょう！」

彼はボクの持っていた傘を取り上げようとした。思わず声を上げて制止する。

「……待って！」

「……どうしたんすか、師匠？」

ボクは常日頃から、霧雨亡霊区域のことを決して忘れないと……忘れてはいけないと思いつづけていた。だというのに、ボクはこの傘の存在を忘れていた！
もしかしたら本当に、ただの使い古されて使い物にならなくなった傘が捨てられていただけだったのかもしれない。それでも、あの日のボクにとって、この傘は区域がそこにあった痕跡なんじゃないかと思わずにはいられなかった。それなのにボクは傘のことをすっかり失念していたのだ。
だんだんとこの傘がボクのことを責め立ててくるように感じる。ボクはいつもあんなに彼女を想っていた……つもりだったのに。ボクは嘘つきで、薄情者だ。……だからといって、ここでずっとこの傘をしまいこみ続けているのは本当にいいことなのだろうか？
本当に、こんなモノで彼女の存在を繋ぎ止められるのか？

「……傘は金属部品とかもあるし変に混ぜて捨てたらダメだからナ」

「わかってるっすよ！ゴミの分別は大切っすからね！」

……ボクはその傘を手放すことにした。
ほんの数ヶ月で忘れてしまうような代物なのだ。未練がましく手元に置いたところで、何かの役に立つとも思えなかった。

「片付け終わったらみんなを呼んでパーティでもしましょうよ！楽しいっすよ！」

「ウン、そうだナ！」

そうだ。こんなモノに縋らずとも、新しい思い出を作り続ければいいのだ。古いものを忘れても、彼女についての新しい思い出が新たに生まれれば、きっと彼女を忘れることはないのだから。