色褪せてなお ページ19
出口へ向けて歩きながら、ボクは外に出た後のことを考えていた。
不思議な空間に迷い込んで記憶喪失になる……という話では、大抵外に出れば記憶は戻るものだ。今は自分が誰だったのかさえ思い出せないけれど、きっと出口まで行けばどうにかなるだろう。
「……ねえ、もしキミも外に出られたら何したい？」
「え？」
突然声をかけられたことに、腕の中の案内人はぽかんとした様子でいた。ボクは歩みは止めずに彼女に微笑みかけ、外についての記憶を思い出すように語りかける。
「ここに来たせいか、外でのことはだいぶ忘れかけてるけど……それでも、ここの外の世界がとっても色鮮やかで、楽しい場所だったことは覚えてるんだ」
「へえ」
「だから、できればキミも一緒に、色んなことをまた体験したいな、なんて……ボクの仲間のことも紹介するよ」
「そうなんだ……あ、あっちに進んで」
彼女はここであの亡霊たちと長く過ごしていたのだろうか、何を言っても反応が薄くて無関心な様子だ。それでも、彼女の声が聞けるだけで嬉しかった。……ボクは彼女に惚れているのだろうな。
「キミと同じくらいの年頃の子もいてね。……あ、でもみんな都市伝説だから見た目よりずっと歳とってるしな……キミも都市伝説だし、似たようなモノだろうけど」
「そっか」
「ずーっと怪我したみたいな姿の子とか、普通の人間の学生さんとか駅員さんとか、お姫様みたいなドレスのヒトもいて、毎日楽しくってね……」
彼女に語りかけながら、ひとりひとり仲間の顔を思い出す。けれどもそれはどれもぼんやりとして、名前に至ってはカケラも浮かんでこない。この空間にいることに気づいたときより思い出せるモノが減ってきている気がする。もしや、この領域に長居していると記憶を失っていくのだろうか？長くここにいるとあの白い亡霊の仲間になるというのは……全てを忘れてしまったらそうなるということなのか？
ボクはまだ思い出せるモノを記憶の中に繋ぎ留めるように、案内人に向かって喋りかける。
「ボクには確か、相棒みたいなヒトがいた……はずなんだ。メガネをかけてて、いつも元気いっぱいで……」
早く出口に向かわないと。
ボクがボクであるうちに。
ラッキーカラー
あずきいろ
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