空白の席 third

◇ ページ4

慧side







大「 ただいまぁー… 」





ドカドカとした物音と
愛おしい声で目を開ければ、

見慣れた制服姿で
こっちに微笑みを送る彼。


いつの間にか
ソファーで寝てしまっていたらしい。


お疲れ様、なんて頭を撫でてくれる大ちゃんに
思わず頬が緩む。





大「 宏太たちが寂しがってたよ？
慧はどうした、何してるって 」



慧「 ふへっ、それは嬉しい 」





検査のため１日学校を休んだ分は
少しゆっくり出来たものの、

今になればその時間さえ
もったいない、なんて思うようになっていて。


時間が限られてると分かれば
やっぱり少しでも長く皆と一緒にいたくなる。


あの幸せの日々が
もう終わりを告げようとしてることに

ズキズキと
胸が苦しくて、痛くて。



それに移植が成功したとしても
完璧になれるわけではない。

免疫の薬は飲み続けなきゃいけないし
その後のケアが最優先される。

ましてや100％成功する保証もなく
成功したとしても術後にコロッと…あるらしい。



ぶっちゃけ俺が移植を決めたのは
もう苦しい治療はこりごりだって思ったからで。

自分勝手ではあるけれど
さっさと楽になりたかった。


どうせ移植しても
少なからず苦痛があるのなら

残りの時間をより長く、楽しく
皆と居る方がよっぽど良い。なんて考えたりもした、けど…


そう思ったけど…





大「 宏太なんて１日中慧、慧ってうるさいし。
明日になったら覚悟してた方がいいよ、これは 」





そうしたら大ちゃんは悲しむのかなって
宏太たちはどう思うのかなって、そう考えたら



なんか、出来なかった。



知念だって、圭人だって
俺を治すために必死になってくれて。

そこまでしてもらって
今さらもういいです、なんて言えないし


それ以上に、



たぶん、その答えは
彼らの笑顔を崩す事になるから。
彼らを苦しめちゃうと思うから。



それだけは俺にとっても苦痛になる。






大「 あっ、そう言えば検査はどうだったの？
結果、聞いてもいい…？ 」



慧「 あぁ、うん。結果はねぇ＿ 」





だから決めたんだ。


せめて、自分へのご褒美として


残された１週間は笑顔で過ごしたいから、
精一杯の思い出が作れるように、





慧「 特に前とは変わらないって。
薬を飲めば大丈夫らしい 」



大「 そっか!! じゃあ今日はお祝いだね 」



慧「 そんな、大袈裟だよ 」





少しだけ、
嘘をつくんだと。



心に残る罪悪感に背を向けて



そう、決めたんだ。


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