空白の席 third

◇ ページ3

涼介side





山「 でもまた治療して…って、
そんな簡単にいくもんじゃないか… 」



侑「 薬剤は……もう止めようと思う 」





慧が退院する前までしていたのは、
薬の投与による治療で。

薬で少しでも病気の進行を抑制する
緩和的な治療法だったんだけど。


正直に言えばその治療も
とっくに限界を越えてたし、

その上、副作用にも苦しめられて。


そんな治療をする選択肢なんて
今の俺達にはなかった。

というか
出来なかった、の方が正しいかもしれない。


だから俺らが決めたのは
医者としてしてやれることは…





山「 移植、するんだな…？ 」



侑「 もうそれしか、ないもん 」





『 心臓移植 』
そのたった、ひとつだけ。





山「 でも、順位は？
そこが良くなきゃどうにもなんねぇだろ 」



侑「 さっき調べた時は、１０位代切ったってとこ… 」



山「 でもそれ……厳しいなぁ 」





俺が言った 順位 って言葉は
移植の優先度が決められてるもので。


何百人も待っているその目的はみな
『 ドナー心臓 』だ。


臓器移植という制度の進歩によって
確実に救われる命も増えている一方で

そのたったひとつの治療をするのに
待つ側は、何年もの月日を過ごす。


慧だって、
移植ネットワークに登録してからもう三年。

最低でも二年は待つと言われるその期間に
成す術もなく亡くなる人も少なくない。


それでも治すには、生きていくには
その方法しか、ないんだ。





侑「 それに前、慧が言ってたんだよね。
『 誰かの命を貰うほど、生きる価値はない 』って 」



山「 あぁ…それ俺も聞いた 」





『 移植 』の裏を返せば
必ず誰かの『 死 』を表していて。

それは不慮の事故だったかもしれないし
病気だったかもしれない。


それでもその命には
まだ続きがあったはずだし、

もっともっと長く
存在していられたものだったと思う。


そんな儚い事実だからこそ、


他人に譲るという事の裏に存在する
計り知れないほどの悲しみと涙。

その全てを受け入れなければならないのは
譲り受けてもらう側、なんだけど。




提供する者と、提供される者。




その間にある、
深い悲しみと沢山の愛に隠れて



少なからず、
小さな希望と明るい未来が、確かに存在する＿＿


,

◇→←◇

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す