・ ページ5
"夜"に、外に出たのは初めてかもしれない。
何か、書こう。
何か、見よう。
「灯火」
辺り一面に、優しい光が灯る。
没命は、違和感に気付く。
彼岸花が一輪、温かい光を纏っているのだ。
静かさと冷たさを秘めた夜に、温かさを感じることは初めてかもしれない。
没命は、近づいて彼岸花に触る。
とても、温かい。
まるで、"生きている"。
「これは初めてだ。」
つい、声に出した。
「取っても、いいだろうか?」
花だから、答えない。
「すまない。勝手だが、取らせて貰う。」
光を纏う彼岸花は、いいよと言うように、簡単に取れた。
「本当に、すまない。」
彼岸花の纏う光は、とても温かくて、優しかった。
急いで家に戻り、妹の延命に向けて手紙を書く。
『奇しき物見た、今宵の夜
優しき光、纏う華
美しき、光景
胸が焦がれて焼き尽くされそう。』
「"明日"、鈴音に届けて貰おう。」
今日は、もう寝よう。
嗚呼、その温かさで、包み込んでほしい。
その温かさで、幸せに満たしてほしい。
そう思いながら、光を纏う彼岸花をお湯を張った茶碗に浮かばせた。
そうはいかないと、知っていながら。
1人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ