Half step【4】 (ページ9)

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彼がローテーブルの向こうで頭を下げる。
けど、それ以上にさっきの彼の言葉は、強力だった。

「……ほんまは、私知ってた」

「え？」

「良規が、私には何も言わずにどこか行っとるんも、ライブハウスに行っとるんも。
でも、知らんフリしとった。」

そう言うと、大きく目を開いた彼。

「…嫌われたくなかった。
良規に、めんどくさい、要らんって、捨てられるんが、怖かった。」

「そんなん、
…ごめん、そう思わさせてたんやな」

「やっぱり、悪いのは私やって。」

ううんと首を振る彼

「だって！…向き合ってくれてた良規から、逃げたんは私の方やん、」

それで、彼といるのがこんなにしんどいと思った私は、自分のことしか考えられない最低なやつだった。

部屋にある本棚の端っこに立ててあった茶封筒を持ってきたら、途端に表情は固まる。

「これは、返せない。」

中から出して、2つ折りのそれを開いてローテーブルに置く。

「…なんで、」

「付き合い始めて、少し経った頃書いた。
けどごめん、白紙にして」

良規が渡してきた時は、夫になる人しか埋まってなかったその紙の、妻になる人の欄を埋めたのは、紛れもなく自分で。

「あの頃、良規のものになってたら、
まだ違ったんかもしれん。…待ってくれてたのに、ごめんなさい。」

ローテーブルから身体を離して、床に手を付いて頭を下げる。

「もう、どうにもならんのかな、」

そう言いながら、彼が私の腕をとって頭を上げさせたところで止まる。

「泣かんといてよ。…振られたんは、俺、やん？」

そう言って、痛そうに顔を歪めた。

「…好きになってくれて、ありがとう。」

「俺も。これ、書いてくれただけでもう…」

そう言って、字をなぞる良規の顔はずっと見てられると思った。

「初めて書いたんやから。良規も？」

「うん。…ほんまは、貰いに行く時めちゃくちゃ恥ずかしかった。
結婚おめでとうございます、とか言われんねんで？」

「うそ、なにそれ」

「それに、普通のとピンクのとありますけど、どっちにします？とか言われて。」

「え〜、ピンクのが可愛かったなぁ(笑)」

「じゃあ、今度はピンクにしよ。」

「…」

「…Aちゃん独身のうちは、俺にもまだ可能性あるやんな？」

心が動かないかと言われると嘘になる。

ごめん、と口が言いかけたところで、彼の顔は緩まって、そんなところにも私は適わないと痛感した。