Half step【4】 (ページ17)

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『不在着信 1件
留守番電話メッセージを預かっています』

その発信者の名前に、鼓動が速くなるのを感じた。

「ごめん、時間とって。…西野さん？」

「え？…あぁ！ごめん、大丈夫やった？」

彼が戻ってきたのに気づかないほど、その画面を見つめていたらしい。

「まあなんとか。それより、泊まるとこ見つけた？」

「んー、昨日泊まったところに荷物預けてあって、そこで聞いてみよかな…」

「その手があったか！俺もそうしよかな〜」

なんて話しながら、2人でオフィスを出て最寄り駅で別れた。

『もしもし、Aちゃん？おばあちゃんです。』

電話は大好きな祖母からだった。
ちょうど1年ほど前から介護施設に入所していた。

『誕生日おめでとね、』

今日は、私の誕生日やった。

けど、私はこんな電話が来るなんて、想像すらしてなかった。

『あんまり無理したらあかんで。また、…おばあちゃんとこ来てな。』

携帯電話を持ってないおばあちゃん。

きっと、私の携帯番号を書いたメモを持って、施設内の公衆電話までかけに来てくれたということ。

そんなことを思うと、私は立っているのが不思議なくらい、身体から力が抜けていく。

おばあちゃんは、…認知症やったから。

お母さんが1番気にしてたのが、残してしまうおばあちゃんのことやった。

『親寄り先に逝くなんて、そんな親不孝なことはないで…』

お母さんがもう長くないと伝えたあと、そう言って泣いているおばあちゃんを何回も見てきた。

私は、そんな2人の姿を見て、私がお母さんに心配かけんようにおばあちゃんを守る。

そう思って、これまで生きてきたのに…

今すぐ、おばあちゃんに会いに行きたい。

会って、「おばあちゃんがお母さん産んでくれたから、私がいるんやで。」って伝えたい。

そんな思いは、先ほど藤原くんに聞いた情報であっけなく実現不可能と知る。

それでもどうにかしたくて。
…でも何も出来ない、その事実が自分を追い詰める。

「ここは、とうきょう、やもんな…」

呟いて、気づく。

そっか、ここは東京やと。

鞄の中から、手帳を取り出すと、そこに挟まれている少しシワの出来たメモを取り出す。

そこに書かれた文字をスマホに打ち込むと、スマホに導かれるように、足を動かした。