Half step【4】 (ページ16)

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大吾からは1回だけ連絡が来た。

『仕事で東京来てるんやってオカンから聞いた。
また来るとき連絡してよ。』

大吾からメッセージが来ることは珍しい。
たぶんかおりさんが気を使ってくれたんやと思う。

『大吾も忙しいやろうし、大丈夫。
気使わせてごめん。』

なんて返せばまた届くメッセージ。

『無理すんなよ。』

寝る前に見たからやろうか。
優しさのこもったその短い言葉に、泣きたくなった。

きっと大吾はもっとしんどいはずやのに。

バンドが再開したと言っても、思うように活動出来てないのはなんとなく気づいていた。

年明けのライブは、関係者の体調不良とかで中止になっていたし、Lazy boysだって今春、3人が大学を卒業した。

音楽一本の道を選んだメンバーもいれば、就職してLazy boysとの2足のわらじを選んだ人もいる。

たまにしか開催されなくなったライブくらいは足を運びたいなと思っても、行けないまま夏になり、
そして今、その夏も終わりかけていた。

まだ、大吾が作った新曲は聴けていない。

＊＊＊

その日は、前日から東京に出張に来てた。

この前の役員会議で、東京支社の設立が決まって、私たちはようやく社内の人間にかくれて仕事をしなくてもよくなった。

オフィスの場所も決まり、今は工事に入る前のオフィスにそれぞれの業者と現場調査を行っている。

朝から様々な業者との約束しており、ようやく最後の業者との打ち合わせを終えたと思った時、藤原くんが「えぇ〜〜！！」と悲痛の声をあげた。

「なんかあった？」

「今からショックなこと言うで？新幹線止まりました。」

さいっあくや。

そう言った彼は、スマホの画面にうつる台風の予想進路を見せてくれた。

「思ってたよりも速度が速いらしい。今夜には関東直撃やって。」

と言ってもまだその時点では都内は雨が少し降っている程度で、全くもって台風が接近してるなんて信じられなかった。

藤原くんが会社に連絡してくれて、もう一泊が決まり、

「ごめん、奥さんに連絡させて。」

と私用のスマホを出したところで、私もその日初めて自分のスマホを取り出した。