Half step【4】 (ページ13)

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「…へぇ、そうやったんや…」

私たちは家族でありながら、知らないことが多すぎる。

そういえば、大吾の部屋にはそれっぽいものがあったかも。
初めて泊まった時に、ギターかもって思った記憶がある。
まさか、あれがね…？

「…Aさん、」

私が考え込んでたからか、良規はかなり気を使った声をかけてきた。

「ごめん、気使わしたね。」

「ええよ気にせんといて。
それより、これ渡しとくわ。」

「え、なにこれ」

「ごめんやけど、大吾には内緒。
守ってな？」

そう言って、私に紙切れを握らせた彼は、『ほんまに心配。』と顔を歪めた。

＊＊＊

「斗亜、この家出るんやってな。」

新年が明けて、斗亜が寝に行ったあと、まだリビングにいる私に小島がそう話しかけてきた。

どうやら彼は今日泊まってくらしい。

「うん。」

「ここから通えんことないんやろ？」

「…私も大学の時に家出たし、サークルとかバイトしたらそりゃ家近いに越したことないもん。」

事実だ。私も大学生経験したからわかる。

それに、社会人でひとり暮らしデビューするくらいなら、時間のある学生のうちからやっておいた方がいいに決まってる。

それなのに、

「寂しなるなぁ…」

隣に座ってそう言った彼に言葉が出てこなくなった。

その原因は、彼の放った『寂しなるなぁ』でも、斗亜がギリギリまで私に話してくれなかったことでもない。

私は、家族で、

大吾とその話をしたかった。

しょっちゅう会える間柄じゃないことも、
…実際は大吾とは姉弟関係ではないということもちゃんと理解してる。

1年前は、ここで2人で家族の話をした。

ねえ、大吾…
話したいこと、山ほどあるのに。

ぼやけた視界をあくびのせいにして、上を向いた。

そうしたら、背の高い小島の視線とぶつかってかなり焦る。

それを知ってか知らずか、

「斗亜のことは俺に任せといてくれてええから。」

今だけはそう言って勘違いした小島がありがたかった。

その年の３月、上司に呼び出された私は信じられない打診をされた。

「東京支社を作る！？」

うちの会社は、西日本に点々と工場があったが、オフィスは大阪だけ。

つまり我々事務部門は、転勤などなく、ずっとここで働くことを約束されていたんやけど

「あんまり大きい声で言わんといてや。
とりあえず、2人に東京のこと任せるな？」

そう、お前ら2人に特命係を命ずる。とかぶざけたように言った総務部長。