二人の夜:W ページ17
渡「髪長いって大変だな……」
「そうだよー、女子のカワイイは簡単じゃないのよ」
リビングで、ソファーに座る俺の足の間にAを座らせて。長くて柔らかい髪を、丁寧に乾かしていく。
髪を持ち上げるたびにいい匂いがして、ああ、なんかこういうのっていいな。
渡「熱くない？」
「熱くない。あったかい」
渡「そっか」
そのあとは特に会話をすることもなく、ただドライヤーの風の音が続いた。
しばらくして全体が乾いたので、くしで髪を整えて、Aをこっちに向かせる。
渡「はい、こんなもんでしょ」
「うはは、へたくそ」
Aができあがりを見て笑う。
渡「むずかったんだもん」
「いいの。嬉しいよ、ありがとう」
Aが、本当に幸せそうに、髪を両手ですいて、俺に笑いかける。
くそ、俺が癒されてどうする。
なんでだか俺がやったらうまくいかなくて、いつもよりハネハネでパサついたAの髪。
俺とは比べものにならないほど時間がかかったから、散々触ったけど。もう一回。
今度は向き合った状態で、Aの髪に触れる。
右手を頭のてっぺんに置いて、そのまま耳のあたりまでゆっくり撫でて下ろす。Aは黙って、柔らかい表情で俺を見つめてた。
と、その唇が。
わずかに赤くなって、少しだけ腫れていることに気づいた。
あ、こいつ、また擦ったんだな。
それが痛々しくて、嫌だった。
なあ、あの男に、ここを汚されたのか？
耳の横で止めていた手を、そのまま頬に添えて。
親指で、お前の赤くなった唇に触れると、
Aは気まずそうに俺から視線をはずした。
渡「………A、」
俺の呼びかけに、Aがまた視線をあげる。
視線が、絡む。
俺はAに一歩近づいて。
少しだけ上を向かせるように、Aの頬をすくい上げた。
Aは、たぶん、俺がなにをしようとしているか気づいて。
気づいたけど、拒まなかった。
時間がゆっくり流れているみたいに、緩慢な動きで、
わずかに傾けたお互いの顔が、近づいて、
ふわりと香る、お前の髪の匂い。
目を閉じる前、最後に見たのは、
俺と同じく目を閉じて、俺を受け入れるA。
目を開けて、最初に見たのは、
見たことない表情のA。
ああ、
唇が触れただけなのに。
「………翔太、」
Aが俺を呼ぶ。
呼んだことない名前で呼ぶ。
渡「……A」
俺も呼び返す。
無駄な言葉なんて、俺たち二人の夜には、なにも必要なかった。
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み(プロフ) - 面白かったです！個人的に、ダテ様とハワイの朝をやるシーンがめちゃくちゃツボでした笑でも、違う方の方と結ばれて欲しかった…のでめちゃくちゃショックです…途中からああこの展開は無理だろうなと思ってましたが…悲しい…まだちょっと心が整理しきれないです(;_;) (2020年4月14日 1時) (
レス) id: 0dd11b40bd (このIDを非表示/違反報告)
K - 最高でした！最後ぐわぁ！と声を出してしまったほどです笑笑 主人公ちゃんの心の動きや描写がすごい読みやすかったです！！ 笑いと感動をありがとうございました！！ (2020年3月16日 13時) (レス) id: a6f7ebf609 (このIDを非表示/違反報告)
あきの(プロフ) - 素敵なお話ありがとうございました。また他の作品も楽しみにしてます(^^) (2019年10月21日 20時) (レス) id: 820a4fb56b (このIDを非表示/違反報告)
まき - 初めてコメントさせていただきます。いつも更新心待ちにしていました！長い間お疲れ様でした！この作品を通しておかゆさんの紡ぐ文章のファンになってしまいました。この物語の主人公と同じように私の心も浮き沈み、最後には暖かい気持ちになりました。 (2019年9月15日 21時) (レス) id: 9e2e841039 (このIDを非表示/違反報告)
ゆめ(プロフ) - 完結おめでとうございます！16万字すごく読み応えがありました、ありがとうございます。番外編や、新作なども楽しみにしております(^-^) (2019年9月15日 9時) (レス) id: c8a059bef4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：おかゆ
| 作成日時：2019年6月7日 16時
