【d!】星空を観に行こう (ページ15)

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2人の彼女 /ut ページ15

｢やってもうたなぁ。｣

ひりひりと痛む左頬に手を当てて街を歩く。まさかあんな所で彼女が鉢合わせになるなんて思わへんよ。
その場で連絡先も消されてもうたし、他の女もいない。完全にフリーなんて何時ぶりやねん。ぜっシャオちゃん辺りに煽られるやろ…。

『あの』

せめて片方ずつビンタにしてくれてたらこんな痛くなかったと思うねんな。いや、寧ろなんで左集中なん？殺意高すぎひん？

『あの。』

あー、どっかに可愛ええ子居ないんかな。ビンタしなそうな子。

『すみません、少し止まってもらってもいいですか？』

くいくいっと上着の裾を引っ張られて振り向くと身長差からか少々上目遣いになった可愛ええ子が立っていた。捨てる神あれば拾う神有りとはこの事か。

｢どうしたんです？お嬢さん。｣
『ほっぺ、赤かったのでこれをと思いまして。』

濡らされたハンカチと、保冷剤。見ず知らずの男にこんなことしてくれる女の子なんてまだこの現代日本におったんやな…。絶滅危惧種やでほんま。

｢ありがとうな。｣
『はい。では私はこれで。』

ぺこりと礼儀正しくお辞儀をした彼女を引き止めた。この子はきっと逃しちゃいけない子や。そう思ったから。

｢ハンカチ、洗って返すわ。連絡先教えてくれへん？｣
『いえ、あの』
｢僕がしたいねん。だから教えて？｣

強引だったやろか。そうは思いつつも連絡先はゲット出来たし上々や。彼女、普段はこの道の角にあるパン屋で働いているらしい。通いつめて落としたろ。

借りたハンカチには丁寧な刺繍が施されており、右下にAという文字。これがきっと彼女の名前なんやろな。
思わぬ出会いをした俺は上機嫌で道を歩き出した。

彼女と出会って1週間。そして気づいた。
この子、全然表情動かへん…！
いやいや、よーく見れば微妙に動いとるから気持ちは大体わかんねん。せやけどめっちゃ分かりずらい。そんなとこも可愛いんやけどな？

『鬱さん、私と話してて楽しいですか？』
｢大先生でええって言ったやん？それにAちゃんと話すのは楽しいで。｣
『そうですか…』

ほら、今ちょっと微笑んだやろ？大人しいって思ったら乏しい表情も長所やんな。痘痕もえくぼってやつや。
｢それじゃ、そろそろ帰るわ。｣
『はい。今日もありがとうございました。』
｢また来るな｣
『お待ちしておりますね。』

無表情の彼女に見送られたその日、俺は夢を見た。