【d!】星空を観に行こう (ページ14)

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いや。
さっきまでの耐える云々の話。あれ仕事の話じゃなかったんだ？
あのタイミングで聞かれるってことは、そういうこと……？

ふかふかの座席に座り背もたれを倒すと、心地よかったはずの声が聞こえてくる。
何度も繰り返し見に来た12星座の最終日。さっきまで、なんとなく物悲しい気持ちだったのに。

内容が全く入ってこない。
リラックスなんてできない。

耐えるのが得意ってなに？
つまり私の妄想込みの解釈では、「前々から気になってたけど声かけるの我慢してました」って話だけど。そうなの？
私いつも彼氏と来てたし。その頃から？いやいや、嘘でしょ。

投影中ずっとぐるぐると考え込んでいる。と、あっという間に投影は終わってしまった。
連絡先を聞かれて嫌だったのか、と問われると別にいやじゃない。ただ驚きが勝っているだけだ。

天田さんに捕まるんじゃないかと怯えながらプラネタリウムから出ると、遠くから視線を感じた。
予想通り天田さんだった。が、特に話しかけてくる様子はない。ただちらちらと私を見ている。

「なるほど、ヤギか……」

さっき連絡先を訊ねてきたのは、草食系なりの最大の勇気だったのかもしれない。
そう考えるとちょっと、かわいい。

カバンを探って、名刺を一枚取り出した。近くにあったアンケート用のボールペンを拝借して、裏面に連絡先を書き込む。
私が天田さんのほうを見ると、視線が合った。ゆっくりと歩いてくる。

「これ、」
「……いいんですか」

名刺を渡すと、天田さんはうれしそうに笑って言った。

「耐えた甲斐があった」
「い、いつから」
「んー？わからへんなぁ」

そんな露骨にはぐらかされることある？

「自分で言うのもなんやけど、かなりヤギなんで」
「かなりヤギ」
「自分で言うてて悲しなってきたわ」
「かなりヤギ……」

パワーワードすぎる。

「それで、ここぞというときにはガッと」
「せや、そん時だけ狼に……ってちゃうで！？別にそんなまだ連絡先聞いたぐらいで牙向いたりせえへんからな！」

あまりにも必死に弁明する。思わず笑ってしまった。

「まさか、取って食われるとは思ってないけど」
「それはちょっと警戒した方がええんとちゃうか」

まさか。
じっと天田さんを見つめると、天田さんも見つめ返してくる。

「んふふ」
「っはは」

なんだこれ。
ただ自称ヤギさんに癒されたことは確かだ。

……耐えるだけの人生じゃなくなる予感。

(山羊座/I endure)