【歌い手】アナタの世界で、ヒミツを暴いて。【コラボ企画】 (ページ34)

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Secret No.12『泡沫の箱庭』ページ34

かたん、

　硝子のような透明と手が触れて鳴るその音は空虚。自分を包む立方体の線をなぞり振動する、空気に張りつめた乾き。
　ここはどこだ、と瞼を擦る。そのときに気づいた、右腕の温もり。犬のような暖かさとその体から伝わる脈音に、ざらざらしていた心筋が撫でるように沈められて滑らかになる。

「......さかた、くん」

　肩を揺さぶる。女子ですか？ってくらい長い睫を震わせて、「...ふぁあ、」とお目覚めの合図。

「おはよ、A」

「おはよう...ね、ここどこ？」

　まったく見覚えがない、どころか現実世界にこんなところあったのか。
　そんな妙なことを疑ってしまうような場所に、今私たちは寄り添って座っていた。

　学校の教室より狭い...六畳間、くらいだろうか。きちきちになることはないけれど、目で終点を終える程度には狭い、透明な箱の中。ドアも何もない、無機質な正方形......人間らしさなんて感じないのに、不安は覚えない。
　ついでに。
　私と坂田くんが着ているこの真っ白なパジャマのような服も、身に覚えがないけれど。

「......A、一回目、つむってみ」

　答えになってない。だけど仕方ない。
　彼がそこにいるから隣にいるから、大丈夫な気がして、平気な気がして。
　そんな不安定な確信は、きっと何よりも正しい。
　
　視界を黒く閉じる。肌に纏う空気が、色濃く変遷するのを感じる。

　＊＊＊

　潮の匂いに泣きたくなった。心の隙間をしょっぱく突く深みのある青が、こんなにも明確に目蓋の裏に描かれる。
　どこか仄暗いその青さに身を任せてはきっと帰っては来られない。しかしその闇はどこまでも純粋に色そのものを透くのだった。
　下から多数の膜が押し上げていく。どこに行くのかとそれをつつけばぱちんと音を立ててなくなっていく。その繰り返しによって、私の周りは綺麗に濁っていく。

　＊＊＊

　目を、開けた。
　透明な箱に覆われていることは変わっていないのに、その透明は透明であれど無色ではなかった。

　―――――――――――――――――揺らめく群青。
　絶えず動き続けるそれに抱くのはもはや畏怖であった。飲み込むように包み込むように収縮する膨大な量の潮水が体を浸す。
　吸って吐くたびに自身の肺を循環するのはしかし水ではなく空気だった。その魔法に違和感を覚えながらも平然と受け止めている自分がいた。