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視界にはなるせの顔がいっぱいに映り、その後ろには天井が見えた。
背中にはカーペットの感触があり、なるせに押し倒されたことに気づくのは遅くなかった。
何故こうなったのか考えてみるもさっぱり分からず、頭を悩ませる。
すると、なるせの顔が近づいてくる。
「近い近い近い」
「ねえ、A?」
右耳に顔を寄せてきて、いつもより幾分か低い声で名前を呼ばれる。吐息が耳にかかり、反射的に顔を逸らす。
「歌い手の俺を見るのもいいけどさ、俺のことも見てよ」
さっきとは打って変わって寂しそうな声でそう言われ、逸らした顔をゆっくり戻す。
右耳から離れたなるせを見れば瞳が揺れていて、髪で影がかかった顔は少し赤くなっていた。
「えっ、と…」
「俺ってそんなにAにとってちっぽけな存在なの?歌い手の俺の方が好き?俺、Aが喜ぶ顔を見るのは好きだけど、ずっと歌い手のnqrseばかり見てるのは嫌だ」
「俺のことも見て」
床に縫い付けられた手を絡め取られながら、私から目線を逸らさずそう言われる。
今まで見たことの無いなるせに、心臓が激しく脈打つのが分かった。
「それはつまり…嫉妬、という解釈でよろし…?」
うるさい心臓を無理やり落ち着かせながら、なるせにそう問う。瞬間、なるせは顔を更に真っ赤にさせた。
絡められた手を離され、今度は体をぐるんと横にさせられ抱きしめられる。
「あーそうだよ!悪いかよ!だってA構ってくんねーんだもん!あんなに声掛けたのにさ〜!?」
「ちょ、顔見えない」
開き直ったのか、ベラベラと喋り出すなるせ。後頭部を押さえられ胸にグッと引き寄せられているため、顔を見ることが出来ない。
「聞いてなるせ。あ、やっと顔見れた。真っ赤だね〜かわいい」
「うっせ…」
からかうと面白いくらい静かになり、私が話し出すのを待っていた。
「私にとってなるせの存在はまるで世界そのもの。もちろん歌い手のnqrseも好きだけど、それ含めて、今目の前にいるなるせのことが大好き」
「なるせがいなきゃ_なるせと出会ってなかったら、こんなに世界を色鮮やかに見れなかった」
そう伝え終えると、なるせの頬に横髪がかかっているのに気づき、それを片手で掬って耳にかける。
その手になるせが手を重ねてきて、ギュッと握られる。そして、笑みを零しながら口を開く。
「ずっと見てなきゃ許さないから」
「じゃあ、もっと色んななるせを見せてね」
私の世界を、あなたで満たしてほしいから__
fin.
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