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「──……ってね!」
「はいはい。もう砂糖はお腹いっぱい」
店内に流れる穏やかなBGMを聞き流し、目の前の彼はどこか疲れたような、でも幸せで微笑ましいものを見るような。そんな表情を浮かべながら、最後の一口をカフェラテで流し込んだ。
「親友が毎日幸せそうで嬉しいよ、僕は」
「えへへ。そらるさんと同じ世界線で生きられるだけで私は幸せだよ」
そうなのだ。
❉❉❉❉
きっかけは、私の歳が両手の指で足りなくなった頃。なんでかな。理由はよく覚えていないけれど、私は世界に絶望したのだ。親だったか、友人だったか、自分にだったか。ただ一つ、確かに言えるのは、私を取り巻く世界に絶望した事だけ。此処で呼吸をしている事が、存在している事が嫌になって。消えてしまえば楽になると短絡的な考えで、単純な私は屋上に登ったのだ。
「え……なに、してるの」
「……?」
「とりあえず、そこは危ないから。こっちにおいでよ」
怖がらせないようにという配慮からか。一段高い淵に立つ私に傅き、両手を広げる彼。この時の私は、今思い出しても頭がおかしかった。初対面且つ見ず知らずの男子の腕に躊躇なく飛び込んだ上に、訳も分からずに泣きじゃくった。
運命とは残酷で、どこまでも人間という生き物に優しいと決まっているのだ。
それが私のかみさま──そらるさんとのファーストコンタクト。飛び降り寸前の女子とたまたま居合わせてしまった男子。最悪の出会いで、よくある話。
❉❉❉❉
そのまま彼に絆されて、魅入られた私は、今までずるずると生き長らえている。
空が青く輝いているのも、水が澄んで美しいのも。全部全部、
「御満悦だね」
「まあね。まふくんのおかげで、良いプレゼントを見つけられたから」
右手に揺れる勿忘草色のショップバックを持ち上げる。と、ちょうど視線の先で藍の髪が重なった。刹那、筋繊維がはち切れるのにも構わず全力で地面を踏み付けた。
「っかみさま!!!!」
掴んだ腕を引き寄せる。引き摺るように下がった身体と、弾かれるように飛び出した身体。今程、作用反作用の法則を痛感した時はないかもしれない。
まあ、痛みを感じる暇もなかったみたいなんだケド。
宙を舞ったショップバックが、寂しげに転がる様がやけに鮮明に見えた気がした。
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