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第玖什玖話「暁を背に交わす約束」 ページ49

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朝が来た。

本体の鬼と決着を付け、夜明けの道を並んで歩く。

会話は無く、朝方特有の冷たい空気が肌を刺すが、何故不思議と不快ではなかった。


「……」


隣を歩くAの横顔を盗み見る。

鬼を斬った後だというのにとても穏やかな様子で少し驚いた。

短期間で昇格していったと聞いたから、鬼を斬ることに慣れているのだろう。

彼女の師の友人としては嬉しいことだが…彼女を守りたい一人の男としては複雑な気分だ。


里の出口で自然と足が止まる。
彼女とは、ここから先で別れることとなっている。
また互いに別の任務があると、鎹鴉からの伝達があったからだ。


何時ぶりだろうか。
人との別れを惜しんだのは。

何時もなら笑ってまた逢おうと口に出来るのに、喉から言葉が出ないのは、まだ彼女と共にいたいという本心のせいなのか。

存外俺は、自分の気持ちを隠したり誤魔化したりするのが下手だった様だ。


「……煉獄さん」


釣られて足を止めたAは遠慮がちに俺を見上げてから、深々と頭を下げた。


「…ありがとうございました」

「!」


ゆっくりと下げた頭を上げ、はにかむAに偽りはなく────実に憂いを取り払った晴れやかな表情だった。

今までもAは色々な表情を見せてくれたが……この表情は杜乃も知らないだろう。


「……あぁ」


それがまた格別で、堪らなく嬉しい。


「互いに何時死ぬか分からない身の上だが…また、また逢おう!!」


「ちょ…っ、煉獄さん、まだ他の人達は寝てますから……!」


俺が撫でてぐしゃぐしゃになってしまった亜麻色の髪のまま、慌てふためく彼女に笑みが溢れる。

そうだ。

たとえ想い描く未来が叶わなくとも、互いに生きていればそれで良い。
幸せであればもっと良い。

此処で別れることは惜しいが、君と再会するその時を楽しみに任務へ励むとしよう。


「では、俺は先へ行く。また無事に逢えることを祈っているぞ!」


髪を手で梳いて直しながら苦笑するAの顔を目に焼き付けて、俺は漸く別れる挨拶を言えた。


「────はいっ!」


その一言を包む明るさと元気さに釣られて俺は笑った。

去り際にさえAが新しい表情を見せてくれることが嬉しくて、声を上げる程笑った。

第佰話「夢にまで見た黒曜石」→←第玖什捌話「忘がたき向日葵」



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素敵な作品ですね - めちゃくちゃ面白くてシリーズの最初から一気読みしてしまいました!更新楽しみにしてます。 (2019年10月23日 14時) (レス) id: 87b58a18e6 (このIDを非表示/違反報告)
人形師(プロフ) - 凄く面白いです!続きが気になります。応援してます!! (2019年10月6日 0時) (レス) id: 05191dc1a4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2019年8月7日 8時

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