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第玖什柒話「赤よりも藤を添えて」 ページ47

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彼女が何か言おうとする前に隊服の袖を捲り上げると、やはり呼吸で止血されていない傷が幾つも刻まれていた。


鬼に傷付けられたものでは無い、刃物で意図的に斬られた肌から滴る血を見れば明らかに止血していない。

する気がない、の間違いか。


「……自分で傷を付けたのか」


幾ら鬼殺隊の一員だったとしても、嫁入り前の娘が自傷行為をして良い理由にはならない。

杜乃はこのことを知っているのか。
知っていたとしたら……一言言わねば気が済まない。


戦場で正気を失わない様、冷静さを保ちながら怒気を孕んだ声で気まずそうに俯いていた彼女に問えば、恐る恐る反対の手を開いてこちらに暗器を見せた。

刃の鋒から柄の手前まで赤黒い血が染め上げているのを見て、密やかに眉を顰めた。


「……こうしてると、鬼がたくさん寄って来るんです。わたしは、稀血なので…傷を負って血を流せば流す程鬼は狂って判断力を失います。だから……」

「自分が有利になれる、と?」

「?……はい」


何故俺が怒っているか理解出来ていない様で、小首を傾げてから頷くA。


まるで自分の行動に何一つ疑問を持っていない。

自分が苦痛を被ることに何の感慨も抱かない。

そんな彼女に愕然とする。

それではまるで────、人形そのものではないか。


「A……。よく聞きなさい」

「?」


傷付けられたままの腕に白い包帯を巻き、こちらに耳を傾けさせる。

遠い昔、母上が自分に語り掛けた日のことを思い出しながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「確かにこのやり方ならば、より早く鬼を退治出来るだろう。だが…それは君自身の犠牲を踏み台にしているものだ」


言い聞かせる様に語り掛けると、案の定それの何処かいけないのかと言わんばかりに困惑の表情を浮かべるA。


「それの何処がいけないんですか?わたし何かの犠牲一つで誰かが、何かが生き存えるのなら、それは良いことでは…」


一人よりも複数人を少数よりも多数の命を優先する。

確かに任務において我々鬼殺隊が守るべきは一般人だが、だからといって自分の命を物の様に扱ってはならない。


俺は力強く首を横に振って彼女の主張を否定した。


「もし仮に!杜乃や俺が君が死んだとして、それで誰かが救われたとしても…心の底から喜ぶことはない!!」

第玖什捌話「忘がたき向日葵」→←第玖什陸話「紅蓮華を纏う」



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素敵な作品ですね - めちゃくちゃ面白くてシリーズの最初から一気読みしてしまいました!更新楽しみにしてます。 (2019年10月23日 14時) (レス) id: 87b58a18e6 (このIDを非表示/違反報告)
人形師(プロフ) - 凄く面白いです!続きが気になります。応援してます!! (2019年10月6日 0時) (レス) id: 05191dc1a4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2019年8月7日 8時

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