ある日の公安 ページ8
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「なあ、じゃんけんするか」
組織が壊滅してほどなくした頃の警察庁警備企画課のフロア一角での出来事である。
東都のほぼ中央に位置する、銀の箱の彼ら3人がいる部署は、毎夜眠らない。
毎晩遅くまで明かりが点り、滑り出し窓から闇夜にほんのりとその明かりがこぼれる。
降谷、風見、新堂が間借りをするFBIのために設置されたデスクテーブルで、書類の山を切り崩すなか、唐突に降谷が言った。
風見も新堂も、ここ最近は警察庁に籠りっぱなしで、本来の職場である警視庁に足を向けたのは一週間も前だ。
オフィスと仮眠室、時々家のシャワールームを往復する毎日。この先もそんな生活が暫く続くと思えば鬱にでもなりそうな雰囲気ではあったが、風見も新堂もその一言をスルーするほど廃れちゃいなかった。
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『え、何のためにですか？』
質問を投げると同時に、必要事項を記入し終わった書類を降谷のトレイにいれる。お返しだと言わんばかりに、降谷が確認し判子を済ませた書類を新堂のトレイに入れた。
「この秋の夜長に、誰が眠気覚ましのコーヒーを買いに行くのか決めるためだ」
ああなるほど、頭で返事し納得した新堂は、間違えて自分のものに紛れていた風見がこなすべき書類を風見のトレイにいれた。
お前が買いに行け、と眼圧を添えて。
それに気づいた風見は、一瞬ボールペンを止める。しかし直ぐ様、さっきまでと同じように動かし始めた。
「コーヒーならそこにコーヒーメーカーがあるじゃないですか。それでよければ私が淹れてきますよ」
「あのヘドロコーヒーを僕に飲めと？」
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深夜2時を既にまわっている。徹夜が当然の公安と言えど、疲れはたまる。降谷とて、部下を気遣う余裕はない。なんせ、何年もの潜入捜査明けだ。
地雷を踏みかける風見に、新堂は馬鹿と声に出さず口だけ動かした。
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「じゃんけんしましょう」
風見が頷いて言った。
「いいのか？」
『私も降谷さんも風見に配慮してあげたんだよ』
「何のことです？」
「いや、風見がいいならいいんだ」
不思議そうに首を傾けた風見に、一瞬ふたりはアイコンタクトをしたが、すぐに正面へと向き直った。
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作者名：ハル | 作成日時：2021年9月16日 19時
