懐かしの景色 ページ31
『ねぇ、歩いていこうよ』
「お前、武州まで何キロあるかわかって言ってやすかィ?」
『・・・・・・』
駅のホームでまだ歩くか電車で行くか話し合い中である。確かに武州までは遠いっちゃ遠い。でも普通に歩いて行ける距離だ。俺的には。
「ほら、行きやすよ・・・」
ぐいっと腕を掴まれ電車に乗り込む。誰も居ない席に座って電車が動くとすぐさまお兄は俺の肩にもたれかかった。
寝る気か。
『重たい・・・首起こして寝てよ』
「んー、着いたら起こしてくだせぇ・・・」
『えー・・・あだだだだっ!重い!』
お兄はグリグリと首を肩に押し付けながら重みを掛けてきた。そんなに起こして欲しいのか。起きなかったら置いてくからな。
「起こさねーと・・・怒り・・・ま・・・すーすー」
『言い切る前に寝ちゃったよこの人』
まあ、とりあえず着くまで寝かせておいてやろう。寝顔が可愛いのでグリグリ攻撃は許すとして、俺は窓の外を見た。
江戸の街から田舎の景色に変わる。畑や田んぼ位しかないその景色は懐かしさを思い出す風景だった。
お墓の前に家の跡地も見ていこう。確かそのままになっているはず。
《次は「武州・・・武州」》とアナウンスが流れる。お兄を起こさねば。
『お兄、もうすぐ着くよ』
「んー、、姉上・・・もう少し・・・」
『・・・・・・お・き・ろ!』
ビシッとデコピンを1発。
「いでっ!・・・・・・三途の川がみえ・・・」
『そんな強くやってないから。殺してないから。ちゃんと戻ってきて!』
「・・・・・・・・・おはよーごぜーやす」
不機嫌そうな顔をしたお兄が俺をめちゃくちゃに撫でた。今にも連続パンチが飛んできそうなので何もせずにお兄を立たせ、電車から出た。
『こっちだよ・・・』
駅を出て家の方に向かう。懐かしい田舎の匂いと景色。田舎道を抜けると辺りは真っ黒で焦げた木くずや板が転げおいていた。昔と変わらぬその景色。
俺が元住んでいた家。
今は焼け跡が残っているだけである。
『・・・・・・・・・・・・』
「・・・これァ・・・」
お兄もビックリである。お兄の家からそう遠くない距離である。幼かった俺はここで死んだのだ。
『・・・・・・ね、本当に俺ここで死んだんだよ』
そう呟くとお兄は俺を優しく撫でた。その優しさにポロポロ涙が出てきてしまった。
「・・・・・・」
何も言わず、ただ泣く目の前の俺を抱きしめるだけだった。
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Lime(プロフ) - 【死神くんは真選組】めっちゃ面白いです!主人公の過去とかもしっかりしてるし想像力豊か!!僕原作沿いの小説苦手で非原作沿い漁ってたんですけどとてもいい作品に出会えました!!更新ゆっくりでいいので待ってます! (2022年7月5日 22時) (レス) @page48 id: 9dc1bcf53d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:のろすけ | 作成日時:2019年6月17日 19時