8話・腐った世界で守りたい存在 ページ8
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街灯だけが照らす道を彼女の家まで送るために一緒に歩くこの時間は割と嫌いじゃない。
凍えるような寒さに雪が降ってたって手を握りあえば温もりに緩和される。ふと、少し下にある彼女の横顔を見てみる。空から降ってくる雪をまた眺めていた。
「そんなに雪に思い入れがあんのかよ」
「…そうだね。ありすぎるくらい」
目を閉じて何かを思い出しているのだろうか。その姿がどこか危うくて「ちゃんと前見てあるけ」と手を引っ張る。すると、雪ではなく俺を瞳に映してはくすくすと笑うあどけない笑顔にホッとする。
こんな彼女が犯罪に手を染めて優れたハッカーなんて誰も思いやしない。それに年齢は俺より一回り下でまだ幼さが残る少女がだ。
初めてコンタクトを取って顔を合わせた時だって信じられなかった。たしか今日みたいに雪が降って寒い中、Aは傘もささずに立っていたっけな。
その時の俺は、柄もなく綺麗だと思った。
雪に溶け込むような白すぎる肌に、色素の薄い髪もまつ毛も全て真っ白な背景に相まっていたんだ。それと同時に脆弱な存在に思えた。犯罪に手を染めて生き抜いている人間とは思えないほど。
そんな彼女がこちら側の世界に来た理由は知らない。過去の話は互いにしてないから。
「…って、また雪見てんだろ。そのうち転ぶぞ」
「そんなわけな…ッ…わぁ!!!」
「ほら、言った通りになったな」
「転ぶ寸前に手離したココが悪いじゃーん!」
「いや、巻き込まれたくねぇーし」
「もーう!」と子供らしく怒ったり笑ったり。コロコロ表情が変わる彼女を見てて飽きない。そんな純粋無垢なAを汚したくない。だから……
俺がいる「梵天」には入れないつもりだ。
金になるやつ入れろと"アイツら"は煩いが、きっと彼女はあそこに馴染めない。馴染ませたくもない。
そもそも俺がその組織の幹部だということもすらも彼女に明かしてもいないんだ。
ただ、彼女には何も知らないままでいて欲しい。
偶々出会った彼女。ビジネスパートナーとしての利害関係だけを成り立たせるつもりだったのに、どこか抜けていて世間知らずで世話がかかって仕方がなくて。
いつのまにか世話を焼いて目が離せなくなって手を引っ張る自分がいた。
だからこそ、そんなお前には安全な場所で生きてほしいと思った。俺のエゴかもしれない。けどこれだけは言える。
腐った世界でも唯一「守りたい存在」と思えたんだ。
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Omiso(プロフ) - 十六夜夏希さん» コメントありがとうございます!好きだと言っていただけてとても嬉しく思います!また、書き終わってしばらく経った今でもこうしてコメントを頂けること幸せです!本当に最後まで読んで頂きありがとうございました! (2022年4月30日 14時) (レス) @page38 id: 6bf568ad42 (このIDを非表示/違反報告)
十六夜夏希(プロフ) - マイキーが春千夜を見放す(?)のって珍しいですね!言葉では表せないくらい好きです。お疲れ様でした!! (2022年4月30日 13時) (レス) @page39 id: cc6ab814ba (このIDを非表示/違反報告)
Omiso(プロフ) - ゆゑるさん» コメントありがとうございます!わわっ!たくさん褒めていただいてとても嬉しいです😊何より貴方様を楽しませられたことが作者にとって一番の幸せです😭本当に最後まで読んでいただきありがとうございました! (2022年4月12日 8時) (レス) id: 6bf568ad42 (このIDを非表示/違反報告)
ゆゑる(プロフ) - うわぁぁぁ!!今読み終わったんですけど、最高ですっ...!作者様の表現の仕方からもう素敵でした😭めちゃくちゃ面白かったです!!!!! (2022年4月12日 1時) (レス) @page39 id: 1d05848943 (このIDを非表示/違反報告)
Omiso(プロフ) - yumuiさん» コメントありがとうございます!隠れ主人公!確かにそういった捉え方もありますね…貴方様の発想に驚かされました。作り手としてしっくりときたお言葉をいただいて嬉しく思います。最後まで読んでいただきありがとうございました! (2022年3月7日 16時) (レス) id: 6bf568ad42 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Omiso | 作成日時:2021年10月16日 17時