19話 ページ20
「髪、伸ばしてんだな。理由でもあんのか」
サラリと手の平で流される髪を横目に「あぁ、はい」と答える。
「そっちの方が髪にも動作がついてパフォーマンスにいいとダンデさんに言われたので」
そういえば黙り込むキバナさんは、突然ガシリと私の頭を掴んで
「お前なぁ、聞いてりゃダンデの言いなりすぎねぇーか?」
「呆れたぜ」と髪をくしゃくしゃとされる。それに抵抗しながらムッとする。そんなこと自分でも分かってる。分かってるけど…
「しょーがな「しょーがないで済ませるのも大概にしとけよ。だから今日あんなところで泣いてたんだろうが」
「…」
そう言われたら何も言い返せない。押し黙ればキバナさんはドライヤーを置いて私の髪に指を通しては「乾いたな」と呟き、端正な顔をこちらに覗き込ませる。
「A。俺は意地悪言ってるわけじゃねぇーよ。お前のことを思って…」
と途中まで言いかけて口閉じた。そして、
「いや、違うな。お前に説教できるほど俺は出来た人間じゃねぇーよな」
「え?」
途端に厳しい表情が崩れて自嘲の笑みを浮かべるらしくない姿。
「お前のこと思ってなんて口では散々言ってたくせにここ数年Aのために何もしてやれなかった。黙って見てたんだ。誘いのメールを送ってそれで自己満足して。行動に移せばよかったのをほっとくことがお前のためだって心のどこかでは思ってな。それこそしょーがないなんて勝手に決めつけてた」
いいや。違う。誘いのメールをしてくれたキバナさんに対して応えなかった私に責任がある。それなのにこの人は、
「けどな、今日空を見上げてお前が泣いてあのでっかいタワーから逃げ出すように飛び出したのを見て…あぁ、やっぱちげーなってそう思ったんだ」
全てを抱え込んで掻っ攫ってしまう。
「ごめんなぁ、A。もっとこうして早くお前に会いにくればよかった」
サラリと私の頭を何度も撫でてギュッと温もりを与えるよう抱きしめてくれるキバナさん。
こんなにもカッコよくて、心優しい人が出来た人間じゃない?いいや、そんなわけない。
昔から変わらず私を気に掛けてくれる貴方がいるからひどく安心感を覚えられる。その事実は、いとも簡単に沈んだ心を救ってくれるんだ。
「ありがとうございます…ッ…」
ただこの一言しか言い表せなかった。胸の奥底から湧き上がる感謝の気持ちを。
それでも、キバナさんはとても嬉しそうに「あぁ!」ととびきりの笑顔を見せるのだ。
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Omiso(プロフ) - 天音さん» コメントありがとうございます!キバナさんだけでなく、夢主まで褒めていただいてすっごく嬉しいです!それに神作だなんて…本当に勿体無いほどの素敵な褒め言葉に感激です!本当に最後まで読んでいただきありがとうございました! (2022年5月7日 8時) (レス) id: 6bf568ad42 (このIDを非表示/違反報告)
天音 - 最高でした…!!✨とても感動しました!キバナさん カッコいい…。夢主も カッコ可愛いい…!!!神作品!! (2022年5月7日 0時) (レス) @page44 id: c80b266ed1 (このIDを非表示/違反報告)
Omiso(プロフ) - 葵さん» コメントありがとうございます!キバナのかっこよさにとても力を入れたのでそう言っていただけて嬉しいです!神作品だなんてそんな!私には勿体ないお言葉…感謝の気持ちで胸がいっぱいです!本当に最後まで読んでいただきありがとうございました! (2022年2月5日 0時) (レス) id: 6bf568ad42 (このIDを非表示/違反報告)
葵 - 自分ダンデさん推しだったけどこの作品を見てキバナさんもメッチャ好きになりました!!!これはもう神作品としか、言いようがありません!! (2022年2月4日 23時) (レス) id: 6b19049b00 (このIDを非表示/違反報告)
Omiso(プロフ) - きいさん» コメントありがとうございます!貴方様のお言葉にホッとしました。この作品を書いてよかったです!最後まで読んでいただきありがとうございました! (2022年1月3日 0時) (レス) id: 00c4677ab1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Omiso | 作成日時:2021年8月10日 1時