気づいた時にはもう遅いから【呪術廻戦】

38話 ページ38

夏油サイド


あァ、なんて今。私は幸せなのだろう。

腕の中にいる彼女を抱き締めながら幸福感を噛み締める。そしてずっと先程から鬱陶しい教室の外からの視線。そちらに目を向ければバチリと青い瞳と合った。

その瞳はあからさま驚いたように見開いて、みっともなく涙をポロポロと流していた。

そんな悟の姿に笑いが込み上げて口元が歪みそうになるのを必死に堪える。

今さら自分の気持ちに気づいて、好きな相手を手放した後悔と、他の男に取られた嫉妬に塗れているんだろう？胸が張り裂けそうなほど苦しいだろう？でもね…

全部、素直になれなかった自分のせいなんだよ。私はそんな悟にあらためて心の底から感謝を。


「(ありがとう)」


そう口パクで伝え笑顔を送れば、悟は思いっきり顔を歪ませバッと顔を背けてはその場から去っていった。

悪いことをしちゃったかな？いいや、何も悪くない。だってこの現状になっているのは悟が何もしなかったから。逆に私が努力したからだろ。

無条件で彼女に好かれる悟には私の苦労なんて分かりやしない。そして、悟には彼女はもったいない。

そうだよ。悟には彼女はもったいないんだ。自分の想いにも彼女にも素直になれない彼が彼女を幸せにできるはずがない。


「夏油先輩」


腕の中にいる彼女が不意にこちらを見上げる。

潤む瞳に少し紅潮する頬。全て全て愛おしい。


「A…好きだよ」

「…」


戸惑う表情。その淡いピンク色の唇からは好きだという言葉は返ってこない。

焦らない。今は応えなくてもいい。もうわずらわしい存在はいない。これからは私一択だ。

君の想いも悟の想いも潰すことに成功したのだから。

それすら気づかない二人は愚かで。それでも私にとって大切な親友と、恋人だよ。

顔を近づけると彷徨う瞳。迷わす隙も与えないさ。

背けようとする顔を顎を掴んで固定し、唇を重ねる。


「んぅ…げ…とう…先輩…やめ…」

「やめない」


嫌がるなんてひどいな。もう君は私の恋人だろ？

今更遠慮なんてしない。逃がしもしない。君は私に堕ちることは決まっているんだ。まぁ、どちらにしたって寂しさを埋めるために私に縋るくせに。

ほら、何度も口付けをすると抵抗するのをやめて受け入れる彼女。

寂しいだろ？人肌が恋しいだろ？なら私で満たせばいい。利用すればいい。

その分、君はもう私から抜け出せない。

そして、利用したツケはきっちり返してもらう時がそのうち来るから。その時は…君も私を愛してね。

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