気づいた時にはもう遅いから【呪術廻戦】

29話 ページ29

夏油サイド


(五日目)


ことは全て上手く進んだ。

ふわりの窓から暖かい風が流れてくる穏やかな空気の中、裂くような男の怒鳴り声が聞こえてくる。

席を立ち窓から下を覗きこめば言い争っている男女の姿。

一方が悟。もう一人が女の姿。今までよくある光景だったが一つ違うこと。

その女の方が…そう、後輩であるAちゃんの姿。

言い争っているっていうのは間違いか。一方的に悟が罵倒を浴びさせているようだ。

それをただ受け止めて彼女は下を俯いている。


「悟ってほんと素直じゃないね」


昨日は焦ったよ。彼女が私のアドバイスを無視して、また悟が彼女に自ら近づくなんて思ってもみなかったから。

なんでそのことを知っているかは簡単な話。彼女を朝から見張っていたからだ。

決して悟の様子から気付いたわけではないが、彼女は勝手に勘違いしてくれたようだ。

見張っていたなんて側から見ればつけていることと変わりないだろう。もちろん非常に良心が痛んだが仕方がなかったんだ。だって、想定外のことをされては困るだろ？

実際に見張っていたおかげで揺れ動いていた悟の気持ちに釘をさせた。

少し煽れば悟は素直になれない。彼女を気になっている好意を嫌悪へ書き換えることだって出来る。

言葉は本当に素晴らしい。それに惑わされる相手は馬鹿極まりない。


「！あーあ、可哀想に」


罵倒し続ける悟に耐えきれなくなったのか彼女がとうとう泣き崩れ、顔を手で覆う。そのことに悟はハッとして動揺する姿。

今までの女だったら面倒くさそうにしてたくせに。Aちゃんだけには特別なんだね。


「目障りだ」


泣き崩れる彼女に恐る恐る手を伸ばそうとする悟に対して、手に持っていた紙屑を窓から投げる。

目の前に落ちてきたそれに悟は私の存在にやっと気付いては紙屑の中身を確認する。


「(お疲れ様)」


そう書かれた紙屑に目を見開く悟はこちらを見上げる。

なんでそんなに驚くんだい？今まで女をフったあとその言葉を送れば君は笑顔で「ありがとな」とケラケラ笑ってただろ。

まぁ、今回は同様といかなかったんだろうね。だけどプライドの高い君だ。彼女をフると私の前で宣言した手前、彼女に寄り添うことはできないはずだ。

案の定、手を下ろして泣き崩れる彼女の横を通り過ぎその場を去っていった。


「やっぱり素直じゃないな」


そのことにただ感謝するよ。

これで君はもう後戻り出来やしない。彼女の元へと。

そして、彼女も悟の元へ戻らない。

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