+story(想起) ページ30
それから、色々な話をした。昼食のこと、駅前の洋食屋が美味しいこと、最近はまた中也と背が近くなったこと。
ケエキ屋の話をすると、
「そう云えば、前に咲楽が将来の夢はケエキ屋さんだと云っていたな」
と、思い出した様に云う。Aは咲楽のその姿を思い浮かべて、笑みが零れた。
「咲楽に似合ってる。楽しみだなぁ、それ。
織田作は小説家だっけ」
「…ああ」
「意外と普通だね」
嫌味の心算で云った。殺しの技術に恵まれている兄にそんなもの、と。
今考えてみれば羨ましかったのだ。自分より才能がある兄が、普通の夢を持っていて、その為に最下級構成員であること。
自分には、持っていないものが、羨ましかった。
「普通が良い」
何処か満足したように云う織田を見て、Aは何も云わなかった。
云える筈なかった。
「…そ、う。何時か読ませてね、小説。」
「勿論だ」
二人、華やかな街を歩いた。
マフィアの準幹部と最下級構成員。
少しだけ可笑しな兄妹だけれど、兄妹としては至って普通だった。
自分には無いものを羨ましがる妹も、
それに気付かない鈍い兄も、
若し、こんな世界じゃなかったら。
二人は幸せな侭だったのだ。
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作者名:みるくてぃー | 作成日時:2019年5月27日 19時