あの時キミに・・・【2】 (ページ5)

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頼まれた鍋、そして卓上コンロを持って家を出たのは5分前。

鍋をやるなら卓上コンロも必須だよね、と自分に言い聞かせていた1分前。

両手にかかる荷物の重圧に耐えながら、卓上コンロなんて頼まれてない。
持ってこなきゃ良かったと後悔している現在。

「重い・・・。」

耐え切れず、住宅街のど真ん中で一度荷物を下ろす。
うっ血状態だった掌は圧力から解放され、血の巡りで赤みを帯びていく。

みっくんの部屋まではあともう少しだけど

またこれを運ぶのかと思うと一気に体が重くなる。

キキーッ

後方から自転車のブレーキ音が響く。

その音で自分が通行の邪魔になっていると気付く。

「すみません。」

そう言いながら振り向いた先には思いがけない人がいた。

「裕太くん？！」

彼もまた、驚いた顔をしている。

「大丈夫？」

「あ、ごめんなさい。」

「え？」

「邪魔だよね。」

荷物を急いで持ち上げると、彼は自転車を降りて停めた。

「いや、君の荷物が重そうだったから。」

そう言って近づいてきた裕太くんの顔がかつてない至近距離にあり、思考回路が停止する。

彼の顔が一瞬下がったかと思うと、私の持っている荷物に手をかけていた。

「運ぶの手伝うよ。まだ時間あるし。」

彼はにこりと微笑んだ。

一瞬の出来事に心臓が早鐘を打つ。
それが驚きからなのか、または別の何かなのか。

わからないけど

私に向けられたその微笑みがあまりに綺麗で、見惚れずにはいられなかった。