これが恋だなんて信じないⅡ (ページ33)

今日:2 hit、昨日:23 hit、合計:57,005 hit

涙するシーンページ33

「………ズッ」

「はい」

「あ、ありがとう……」

宏規くんに渡された箱ティッシュで溢れてきた涙を拭った。まだ序盤の、盗みを働いた主人公のジャン・バルジャンを、慈悲深い神父様が助けてくれる場面。ジャン・バルジャンが悪の自分を改めるきっかけの場面だ。いや、めっちゃ最初の方じゃん。でも、ここは泣かずにはいられない。この神父様ほど素晴らしい人を、私は他に知らない。

宏規くんの視線を(気のせいかもしれない)感じながら、物語は進んだ。

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

しかし、涙脆い私だって涙が枯れる場面もある。前々から言っているが、マリウスが出ているシーンだ。特に、マリウスに片想いをしているエポニーヌに自分の好きなコゼットのことを教えてくれないかって言ってるシーンね。なんで気付かないの、もどかしい。いや、マリウスが嫌いな訳では無い。ただちょっとアホだなって。

「エポニーヌ………」

エポニーヌのソロのシーンに差し掛かった。「On My Own」というこの曲名は「自らの意志で」「独りきりで」のような意味だけど、歌の中では「独りきり」という方の内容を歌っている。マリウスの笑顔が見たいために、コゼットとの恋路を応援してしまうエポニーヌの哀しさ、寂しさを見事に表した一曲で、この曲が1番好きな人も多いだろう。私もその一人だ。エポニーヌはキャストの名前が載るときも、マリウスやコゼットよりも早い、3番目に載る。レミゼの世界観、「惨めな人々、哀れな人々」に沿っていて、それを体現している、とても重要な役だ。

帰ることのできる家もない。雨の中、暗い夜の街をたった1人で彷徨い歩く。「独りきり」を悲しく歌いながら。そして革命が起これば、本来マリウスに当たるはずの銃弾を受け、最初の犠牲者、となるのだ。こんなに悲しいことがあってたまるだろうか。

「………」

またもや、枯れかけた涙が頬を伝った。この先の展開を知っているだけに、余計に涙が溢れるように出てくる。エポニーヌの健気な姿に心を打たれる人は、少なくない。チラッと隣を見れば、宏規くんも涙を流しているように見えた。