これが恋だなんて信じないⅡ (ページ15)

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「こちらへどうぞ。少しお待ちください」

そうして勧められた席の前に座って目の前の鏡を見た。こんな風に実際に試したり、タッチアップをしてもらったりすることは地味に初めてだから妙に緊張する。鏡越しに向こうにいる宏規くんと目が合い、クスッと笑いあった。

もれなく美容部員さんが戻ってきて、もとからついていたリップを落としてくれながら言った。

「素敵な彼氏さんですね♡‬」

「えっ?!か、彼氏じゃないですよ……！」

「そうなんですか?!すごく仲が良さそうだからてっきり…」

びっっっっくりした……そんなふうに見えるんだ……
鏡の前の自分は明らかに動揺していて、どう考えても赤くなっている。思わず鼓動も速くなった。
動揺を隠すため、「やっぱりこういうところに来る男女の二人組ってカップルが多いんですか？」と聞いてみると、「そうなんです〜カップルのお客様ばかりですよ」と返された。そういうことか……普通は男女二人で来るところではないよな

「ふふふ、どうですか？黄味の入った赤なのでお客様お似合いです」

「やっぱり可愛い…オレンジの方見なかったら絶対この色にしてますね」

「そうですか？ありがとうございます！もうひとつの方、すぐにお試しされますか？」

「はい、お願いします！」

またもや談議が始まる。美容部員さんはお客とのお話も接客のうちらしいから、話を振るのが上手い。

「失礼ですが、お客様のご年齢はおいくつですか？」

「あ、今年で20です。まだ19ですけど」

「え～お若いですね～！羨ましいです。私もう26なので」

「お姉さんすごくお綺麗ですよ！美容部員さんって感じで華やかだし…」

「そんなこと言ってくれるのお客様ぐらいですよ～」

やけに気さくで話しやすい人だなーと思いつつ、オレンジのリップを塗ってもらう。初対面の人とここまで話せるのは初めてだ。

「わあ、新鮮ですごく可愛い！」

「この色可愛いですよね～、常連さんからの人気色なんですけど…」

「へぇー！そうなんですか」

「お連れさま、お目が高いな～って思っちゃいました」

鏡には、いつもよりも幼く見えるけど確実に顔写りの良くなった私が映っている。
オレンジはあまり好きな色がないのだけど、これは顔に合っている気がして、新たな発見をしたようで心が踊る。

私は思わず言った。

「あの、これつけていっていいですか？」

「どうぞ。ご購入されますか？」

「はい！お願いします！」